2025/07/03
「ありがとう日記」ワークショップ 小さな感謝をことばにする、心をととのえる旅の時間

“ありがとう”と声に出すだけで、なぜか心が少し軽くなる。けれど、日々の忙しさの中では、その一言すら飲み込んでしまうことも多い。だからこそ、旅先でふと立ち止まり、「ありがとう」を書いてみる時間は、自分の気持ちをやさしく整えるための特別な機会になる。「ありがとう日記」ワークショップは、感謝の感情を“ことばにして書く”ことで、気づきと癒しを体感する穏やかなプログラムである。

このワークショップは、カフェや旅館の一角、文化施設や図書館、時には古民家やお寺の書院など、静かに集中できる空間で行われる。所要時間はおおよそ30分から1時間。参加者は一冊のノート、またはその場限りのカードや小冊子を手に取り、テーマに沿って「ありがとう」を書き始める。

冒頭には、進行役のスタッフやファシリテーターから、ほんの短いガイドがある。「誰かへのありがとうでも、自分へのありがとうでも構いません」「今日の天気でも、道端の花でも、思い浮かんだものから自由に書いてください」──その言葉をきっかけに、参加者は自分の内側に目を向けていく。

文字にする対象はなんでもいい。今朝笑いかけてくれた宿の人、久しぶりに話せた家族、無事にここまで来られた自分自身、ふと見上げた空の青さ。日記というよりも、“ありがとうを見つけるための地図”のようなものだ。書いているうちに、気づかぬうちに抱えていた疲れやモヤモヤが言葉に変わり、「ありがとう」に形を変えてノートに並んでいく。

親子での参加も多く、子どもはカラーペンやシールを使って日記をデコレーションしたり、絵で表現したりする。小さな手で「ママありがとう」「川であそんでくれてありがとう」と書いたページを見て、親が静かに目を細める──そんな場面がこのワークショップでは自然に生まれる。親にとっても、子どもと並んで書く時間は、旅の中で深く記憶に残るひとときとなる。

外国人旅行者の参加も歓迎されており、「thank you journal」や「gratitude note」などの形式で、英語や母語で書くこともできる。多言語の例文カードやサンプルも用意されており、自分の言葉で自由に表現できる工夫がなされているため、言語を問わず参加できる。

完成した日記やカードは、そのまま持ち帰ることも、施設内に飾ることもできる。持ち帰ったノートは、旅から帰ったあとも続けられる“習慣の入口”となり、時折ページをめくるたびに旅の空気がよみがえる。飾ったカードは「誰かのありがとう」として、別の参加者の心をあたためる小さな循環になる。

「ありがとう」は、口にすることで伝わり、書くことで自分に返ってくる。だからこそ、このワークショップは、誰かのためであると同時に、自分自身を大切にする行為でもある。旅先という非日常の中で、改めて感謝の視点に立ち返ることは、人生のリズムをほんの少し優しくしてくれる。

観光でもアクティビティでもない、けれど確かに心に残る“言葉の旅”。「ありがとう」を探す時間が、日常に戻ったときも、そっと支えになってくれる。