日本の賃貸住宅のなかには、冷蔵庫や洗濯機、ベッド、机、カーテンなどの家具や家電が最初から備え付けられている「家具付き物件」という選択肢が存在する。こうした物件は、引っ越しの初期コストを抑えたい人や、短期間だけ滞在する予定のある人にとって非常に便利で魅力的に映る。
しかし、家具付きという点に安心してしまい、細かな内容を確認しないまま契約を結ぶと、思わぬトラブルや不満につながることもある。契約後に「想像していたより古い家具だった」「壊れても交換してもらえなかった」などの問題に直面する例も少なくない。
この記事では、家具付き賃貸を検討する際に見落としやすい確認項目について、実際の契約実務に基づき丁寧に解説する。初期費用の抑制と利便性を求める一方で、契約上のリスクを避けるために知っておくべき基本を整理する。
家具付きとはどの程度の設備が含まれるのか
家具付き物件とひとくちに言っても、その内容は物件ごとに異なる。最低限の備品しか用意されていない場合もあれば、生活に必要なほとんどの設備が揃っているケースもある。そのため、まずは何が付属しているのかを一つひとつ確認することが必要になる。
よくある備品の例としては、ベッド、マットレス、テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、エアコン、カーテン、テーブル、椅子、照明器具などがある。ただし、物件によっては電気ポットや掃除機、食器類など細かな備品がないこともある。
契約書や備品リストに、具体的な品目が明記されているかどうかを必ず確認し、可能であれば写真や現地での内見を通じて、実際の備品の種類と状態を確認することが望ましい。
備品の管理と修理・交換ルール
家具や家電は、住み始めてから使用頻度が高くなるため、使用中に故障や破損が発生することは十分に考えられる。こうしたトラブルが起きたとき、誰が修理や交換の費用を負担するのかという点は、物件によって大きく異なる。
たとえば、貸主側が「無償貸与」としている場合、通常使用の範囲内で故障した場合には貸主が修理または交換することになることが多いが、契約書にその明記がなければ、借主側が費用を負担するよう求められることもある。
中には「使用中の不具合は原則借主負担」「交換希望の場合は実費請求」「修理は自己手配」などの特約が付されているケースもあり、これらが退去時のトラブルにつながることもある。
契約書の中に「家具・家電は設備ではなくサービス提供」といった文言が記載されていないか確認し、補償の有無や責任の分担について明文化されているかを注意深く確認する必要がある。
原状回復に関する取り扱い
家具付き物件においても、通常の賃貸契約と同様に、退去時には原状回復の義務が発生する。ただし、家具付きの場合は、備品の破損や汚損もその対象になる可能性がある。
たとえば、マットレスに大きなシミが残っていたり、テレビのリモコンが紛失していたりすると、原状回復費用として請求される可能性がある。故意または過失による損傷とみなされれば、実費を請求されるのが一般的である。
家具の使用については「通常使用の範囲」での摩耗や劣化は貸主側が負担することが多いが、実際の判断は貸主または管理会社の裁量に左右されることがある。備品の状態を入居前に記録しておくことが、退去時の費用トラブルを避けるうえで非常に有効である。
故障時の対応スピードと連絡体制
家具付き物件では、冷蔵庫や洗濯機、エアコンといった家電製品が日常生活に直結するため、故障時の対応が遅れると生活に支障が出る。しかし、貸主や管理会社によっては修理対応が迅速でないケースや、特定の曜日・時間にしか対応しない場合もある。
契約前には、緊急時の連絡体制やサポート時間帯、代替品の用意があるかなどを確認しておくことが重要である。また、修理や交換の判断に要する日数の目安を聞いておくことで、故障時に落ち着いて対応できる。
連絡先は電話だけでなく、メールや管理アプリなどの対応チャネルが整っているかも確認しておくと安心である。
家具や家電の年式・状態
契約時点で家具や家電が用意されているとはいえ、その品質や状態は物件ごとに大きく異なる。製造から年数が経過している製品が置かれていることも珍しくなく、表面的には使えそうに見えても、実際には動作が不安定だったり、消耗品が劣化していたりすることがある。
とくに注意すべきなのはエアコンや冷蔵庫など、生活の根幹に関わる家電の状態である。異音がする、冷えが弱い、電気代が高くつくといった問題は、住み始めてから発覚することが多い。
できれば入居前に試運転をさせてもらうか、年式や製品型番を教えてもらい、使用歴や交換予定について説明を求めるとよい。劣化が進んでいるようであれば、契約時に交換の要望を伝えることで対応してもらえることもある。
家具付きと明記されていても実態と異なる場合がある
不動産広告に「家具付き」と記載されていても、実際には一部しか用意されていないこともある。たとえば、「テーブル付き」と記載されていても、実際には簡易的な折り畳み式だったということや、「ベッド付き」と言いつつマットレスがないというケースもある。
また、モデルルームの写真をそのまま使用している広告では、あたかも多数の家具が用意されているように見えるが、実際には一部がオプションで別料金ということもある。
契約前には、家具・家電の一覧表をもらい、現物の写真または型番を確認することで、実際の設備と期待値のズレを避けることができる。
契約形態と家具の所有権
家具付き物件には、「家具付き賃貸」と「家具レンタル付き賃貸」の2つの契約形態が存在することがある。前者は貸主が所有する家具を無償または条件付きで提供するものであり、入居者が自由に使うことができるが所有権はない。
後者は、第三者のレンタル会社が提供する家具や家電を、入居者が月額費用を支払って利用する契約形態である。契約解除後には家具の返却が必要であり、レンタル費用は家賃とは別に請求されることがある。
どちらの契約形態なのか、契約書や重要事項説明書に明記されているかを確認し、料金体系や使用条件を正しく理解しておく必要がある。