日本で部屋を借りたいと考える外国籍の人にとって、最初の大きなハードルは言語である。特に賃貸契約という法律行為を行う場面では、日本語が十分に理解できないことによって、契約内容を把握できず、不利な条件でサインしてしまうリスクがある。
「日本語が話せなくても契約は可能なのか」という問いに対する答えは、「可能だが、条件次第である」となる。実務では、外国語が話せない不動産会社や管理会社も多く、借主側に一定の対応力や準備が求められる。また、通訳の有無、対応言語、説明資料の有無なども物件や地域によって大きく異なる。
この記事では、日本語を話せない、あるいは読むことができない外国籍の人が、日本で賃貸契約を結ぶ際の現実と、通訳対応の有無、注意すべき点について、事実に基づいて詳しく解説する。
日本語力と賃貸契約の関係
日本の賃貸借契約は、基本的に日本語で書かれた契約書に署名・押印することで成立する。契約書だけでなく、重要事項説明書、初期費用の見積書、建物利用規則など、関連書類はすべて日本語で提供されることが一般的である。
そのため、日本語を読んだり書いたりできない場合には、その内容を正確に理解することが難しくなり、貸主や管理会社からすると「トラブルに発展しやすい」と判断されることがある。実際に、不動産会社が「日本語が話せる人のみ契約可能」と内見の段階で条件を提示する例も存在する。
ただし、これは法律で定められた条件ではなく、管理上の判断であるため、外国籍入居者の受け入れに慣れている業者であれば、日本語が話せないことを理由に契約を拒否されることは少ない。
通訳の同席は義務ではないが重要
日本では、賃貸契約における通訳の同席は法的に義務づけられてはいない。しかし、借主が契約内容を理解できないまま署名した場合、のちのトラブルの原因になるため、実務上では「通訳の同席が望ましい」とされている。
特に重要事項説明の際には、物件の権利関係、解約の手続き、原状回復の範囲、更新の条件など、専門的な内容が含まれているため、日本語が不自由な借主の場合は、通訳を同行させるよう求められることがある。
この通訳者は、不動産会社が用意することもあれば、借主側で手配するよう求められることもある。友人や家族などの非専門家が通訳を務めるケースも多いが、可能であれば不動産用語に詳しい第三者に依頼することが望ましい。
近年では、一部の不動産会社で多言語対応のスタッフを配置したり、オンライン翻訳ツールを用いてコミュニケーションを図るケースも見られるようになってきている。
英語・中国語・ベトナム語などへの対応状況
大都市圏では、外国人の居住需要に対応するために、多言語対応を行っている不動産会社や保証会社が増えている。特に対応が進んでいる言語としては、英語、中国語、韓国語、ベトナム語、ネパール語などが挙げられる。
英語での契約書や重要事項説明書を用意している会社もあるが、あくまで参考訳としての扱いであり、日本語の原文が法的な効力を持つという点は変わらない。そのため、内容に齟齬があった場合には、日本語版の記載が優先される。
また、対応言語が限られているため、自分の話す言語に対応している不動産会社を探すことが、物件探しにおける最初のステップとなることもある。外国人向け賃貸を専門に扱っている会社や、外国籍の顧客実績が豊富なエリアの不動産会社を選ぶと、スムーズな契約につながりやすい。
重要事項説明の通訳がない場合のリスク
日本の宅地建物取引業法では、契約締結前に宅地建物取引士による「重要事項説明」が義務付けられている。これは、物件の権利関係、契約期間、更新の条件、解約通知の期限、原状回復義務などについて、借主が誤解しないようにするための手続きである。
この説明は原則として日本語で行われるため、日本語が理解できない借主に対しては、通訳が不可欠となる。通訳を通じて説明を受け、内容を正しく理解したうえで契約書に署名・押印することが望ましい。
もし、通訳なしで日本語の契約書に署名してしまい、その後「内容を理解していなかった」としても、法的には契約が有効とみなされる可能性が高い。説明内容が契約書に明記されており、署名によって同意が成立したと見なされるためである。
このようなトラブルを防ぐためにも、通訳の同席が可能かを事前に確認し、自身の理解度に応じた準備を行うことが重要である。
保証会社や管理会社によって対応が異なる
賃貸契約においては、貸主だけでなく保証会社や管理会社の判断も契約の可否に大きく関わってくる。とくに保証会社は、家賃支払い能力だけでなく、連絡のしやすさや緊急時対応の可否といった要素も審査に含めている。
日本語での連絡が困難と判断された場合には、保証会社の審査に通らないこともある。そのため、緊急連絡先として日本語を話せる人物を登録しておく、通訳サポートがある保証会社を選ぶといった工夫が必要になる。
また、契約後の生活でも、管理会社からの連絡(設備点検、修理、トラブル対応など)は原則日本語で行われる。そのため、翻訳アプリやメール翻訳を活用したり、日本語が話せる知人と協力体制をつくるなど、居住後の備えも必要となる。
契約をスムーズに進めるための準備
日本語が話せない状態で日本の賃貸契約を進めるためには、次のような準備を行うとよい。
ひとつは、物件探しの段階から多言語対応の不動産会社を選ぶこと。インターネットで検索する際には、「外国人歓迎」「English OK」などのキーワードを活用し、連絡前に対応言語を確認しておく。
次に、通訳者を手配できるように準備すること。信頼できる知人がいない場合は、有料の通訳サービスや自治体の多言語相談窓口を活用する方法もある。
また、事前に契約の流れや必要書類について情報収集し、不明点を整理しておくことで、説明を受けるときに質問しやすくなる。英語や母国語で書かれた契約書のサンプルに目を通しておくことも理解の助けになる。