2025/06/27
「アナログレコードで聴く日本──海外バイヤーが探す昭和音源」  

カチリと針を落とす音、回転する黒い円盤、そしてスピーカーから流れ出すやわらかなノイズ混じりの音楽──いま、アナログレコードを通して「昭和の日本」を体感しようとする海外バイヤーが急増している。

シティポップ、歌謡曲、ジャズ、民謡、さらには映画音楽やCMソングまで──昭和期のレコードが、ヴィンテージではなく“今だからこそ欲しい音”として、世界のカルチャーシーンで脚光を浴びているのだ。

デジタル時代に“モノとしての音”を求める

サブスクでどんな音楽も即座に聴ける時代に、なぜわざわざ重たいアナログレコードを探し、海を越えて買い求めるのか。その理由のひとつは、「体験としての音楽」に対する再評価にある。

ジャケットを手に取り、針を落とし、少しずつ始まるイントロを待つ──そうした一連の所作が、“音を聴く”という行為そのものを特別な時間へと変えてくれるのだ。

海外のコレクターの中には、「日本のレコードは保存状態が良く、音質も豊か。ジャケットのデザインも美しく、文化的価値が高い」と語る人も多い。

世界が追いかける“昭和サウンド”

とくに注目されているのが、1970〜80年代のシティポップや歌謡曲だ。竹内まりや、大滝詠一、山下達郎などの音源は、YouTubeやSpotifyを通じて海外リスナーにも浸透し、今では米国や韓国、フランスの若者たちが“初めて買った日本のレコード”としてこれらを手に取っている。

リズムマシンとアナログ楽器が混ざり合う温かい音像、都会的なコード進行、そこに重なる日本語のメロディ──これらが「懐かしいのに新しい」として再発見されている。

また、アニメサウンドトラックやゲーム音楽(ファミコン・MSX期)も人気が高く、「昭和の音=唯一無二の音楽資産」としてグローバルな注目を浴びている。

バイヤーたちが通う「昭和の宝庫」

日本全国には、いまも数多くの中古レコード店が点在している。中でも東京・下北沢や中野、大阪・心斎橋、名古屋・大須といった街は、海外バイヤーたちにとって“音の掘り出し物”を探す聖地だ。

中には、スーツケースを空で持ち込み、数百枚単位で買い付けて帰国するプロバイヤーもいる。彼らが目を光らせるのは、無名のローカル盤や企業ノベルティ盤、子ども向けのソノシートなど、いわば“大量生産されなかった音”だ。

つまり、昭和のレコードは単なる音楽作品ではなく、“時代の記憶を刻んだアナログ資料”としての価値を帯びている。

“日本らしさ”が音から立ち上がる

もう一つ注目すべきは、昭和音源に漂う“日本的情緒”の魅力だ。湿度を含んだボーカル、情景描写に富んだ歌詞、そしてどこか影を帯びたメロディ。これらが海外リスナーにとって、「理解はできなくても、感じ取れる何か」として心に響いている。

アナログの音が再生される瞬間、そこにあるのは“ただの懐古趣味”ではない。「日本の時間」「日本の空気」を音として受け取る試みなのだ。

おわりに──レコードは“触れる文化”

昭和レコードがいま世界で求められているのは、音楽性そのものに加え、“触れることができる日本文化”としての魅力があるからだ。

和紙のようなジャケット、手書きの歌詞カード、レーベルごとに異なる装丁──そうした物理的な情報すべてが、“耳で聴くだけではない体験”として収集されている。

針の先から立ちのぼる昭和の空気は、海を越えた部屋で、ひとりのリスナーの心を静かに揺らしている。
アナログレコード──それは、過去から未来へ続く、回転し続ける文化のかたちである。