2025/06/19
「住居用」と「事業用」契約の違いを知らないと危険

日本で不動産を借りる際、契約書には必ず「契約の用途」が明記されている。たとえば、「本物件は住居として使用することを目的とする」または「事務所使用可」などの表現である。この違いをあいまいに理解したまま契約すると、思わぬトラブルや違約リスクにつながる可能性がある。

特に近年では、住居として借りた物件で在宅ワークをしたり、小規模なビジネスを始めたりと、「住む」と「使う」の境界が曖昧になる場面も増えている。しかし、契約の種類によって法的保護や義務が大きく異なるため、最初にしっかり理解しておくことが非常に重要である。

この記事では、住居用契約と事業用契約の具体的な違い、誤った使い方をした場合のリスク、契約時に注意すべきポイントを事実に基づいて解説する。


「住居用契約」とは何か

住居用契約とは、居住を目的として賃貸する契約である。個人が日常生活を送る場所として利用することが前提で、これに該当する使用目的以外での利用は原則として制限される。

住居用契約には、以下のような特徴がある。

  • 借地借家法により手厚い保護がある

  • 契約の更新が認められやすく、正当な理由がなければ退去させられない

  • 敷金・礼金などの費用が比較的明確に設定されている

  • 基本的には住民票を置ける

借主の保護が強い反面、「住むこと」に特化した契約であるため、業務利用や店舗営業には厳しい制限がある。


「事業用契約」とは何か

事業用契約は、店舗・事務所・倉庫・教室などの「営利活動を行うための用途」として物件を借りる契約である。法人契約や個人事業主による契約が多く、契約書にも「事業目的」「使用業種」などの記載がある。

事業用契約の特徴は以下の通り。

  • 借地借家法の一部が適用されず、契約更新が保証されない

  • 定期借家契約が採用されることが多い(満了後は再契約が必要)

  • 賃料が住居用より高めに設定されることがある

  • 原状回復義務が住居用より広く認められやすい

  • 消費税が賃料に加算されるケースが多い

契約内容によっては中途解約や更新拒否が柔軟にできるため、貸主側の自由度が高い形式といえる。


契約と実態が一致していないとどうなるか

実際には「住居用契約」で部屋を借りておきながら、自宅の一部で商売を始めたり、クライアントとの面談や物品の保管を行うなど、事業利用をしている例が見受けられる。

このような使い方をしていると、次のようなリスクが発生する。

契約違反として契約解除される可能性

契約書に「住居以外の使用を禁ずる」「事業目的での使用は禁止」と明記されている場合、それに反して事業利用をすれば契約違反となり、退去を求められる根拠になる。

火災保険・賠償責任の対象外になる

住居用の火災保険や設備保証は、「住居利用」を前提として設計されている。業務使用や商用利用が原因で事故が起きた場合、保険適用外になることがある。

管理規約・他の入居者とのトラブル

住居専用物件では、騒音や来客、配送物の頻度など、住環境を乱す行為として他の住人から苦情が寄せられることもある。これにより管理会社から注意や改善要求が出され、最悪の場合は契約解除に発展する。


「SOHO可」や「事務所可」とはどう違うのか?

近年では、テレワークや副業の普及に伴い、「SOHO可」や「事務所使用可」といった物件も増えている。これらは住居として借りながら、一定範囲での業務利用が認められる形態である。

「SOHO可」とは

「Small Office / Home Office」の略で、来客を伴わない業務(デザイン・ライティング・オンライン業務など)を許容する住居用契約の一形態。法人登記や営業許可は認められないことが多い。

「事務所使用可」とは

住居用物件でありながら、軽度の来客や法人登記を許可している物件。業種や利用内容によっては貸主の承認が必要。看板や営業活動を伴う場合には制限が加えられることが多い。

いずれの場合も、契約時に明確な取り決めが必要であり、「黙って使っていた」ことが判明すると契約解除の対象になる。


契約前に確認すべきポイント

契約内容と使用実態のミスマッチを防ぐために、次のような点を必ず確認しておきたい。

  • 契約の名目は「住居用」か「事業用」か

  • 使用目的に関して特約が設定されているか

  • 来客や郵便物の受け取りに関するルール

  • 法人登記や看板掲出の可否

  • インターネット・電気・保険などの設備契約の区分

事業利用を想定している場合は、最初から事業用契約または事務所利用相談可能な物件を選ぶのが安全である。


曖昧なまま借りることが最大のリスク

住居用と事業用の違いを十分に理解せずに契約を進めると、後々のトラブルや追加費用、退去命令につながるおそれがある。どんなに小さな業務でも、「自分が何の契約で借りているか」を明確に認識しておくことが不可欠である。

曖昧な使い方をせず、契約前に「このような使い方をしても大丈夫か」と一言確認することが、最も確実なリスク回避になる。