日本の食卓に欠かせない存在、おにぎり。炊きたてのごはんを手のひらで握り、具を包み、海苔で包む──たったそれだけの作業の中に、米を慈しむ心、家族を想う気持ち、そして日本の食文化が詰まっている。「おにぎりマイスターになろう!」は、そんなおにぎりづくりを改めて体験し、味わい、学び、伝えるための体験プログラムである。
この体験は、旅先で気軽に参加できるよう工夫されており、観光地に併設された料理教室や農家民宿、地元のコミュニティセンターなどで開催されている。内容は子どもから大人まで楽しめるもので、料理が得意でなくても問題ない。むしろ「普段は作らないけれど、食べるのは好き」という人こそ、新しい発見が多い体験となる。
まずは、おにぎりの主役であるごはんについて学ぶ。どの地域の米を使うか、炊き方はどう違うか、水の質や炊飯道具の選び方まで、おにぎりづくりは“握る前”から始まっている。体験では地元産のお米が使われることが多く、その土地の水や気候が育んだ味を楽しめる。ひと口食べて、「甘い」「やわらかい」「香りが強い」と違いを感じることで、米そのものへの関心も高まる。
次に、塩の選び方や手のひらの温度、握り方を学ぶ。あまり強く握ると硬くなり、やわらかすぎると崩れてしまう。絶妙な力加減とリズムが、おいしいおにぎりを生む。形も三角や丸、俵型などさまざまで、自分が一番握りやすいかたちを探すのも楽しみのひとつ。親子で参加する場合、子どもが大人の真似をしながら小さな手でおにぎりを握る姿には、自然と笑みがこぼれる。
具材選びもまた、この体験の醍醐味である。梅干し、鮭、おかか、昆布といった定番はもちろん、地域によっては地元の漬物や味噌、山菜や海産物が登場することもある。その場で具を包み、口に入れると、ごはんとの相性や塩加減、食感の違いなどがはっきりとわかる。いくつか握ってみて、自分の“ベスト・オブ・おにぎり”を見つけるのも、マイスターへの第一歩だ。
完成したおにぎりは、季節の汁物や地元の漬物とともに、木の器や竹の皿に並べられ、見た目にも心地よい一食となる。作ったばかりのおにぎりを外で食べると、なぜだかいっそう美味しく感じられる。風景と手のぬくもりが合わさったごはんには、どんな高級料理にもない力がある。
体験の最後には、「おにぎりマイスター認定証」が贈られることもあり、子どもたちにとっては誇らしい旅の勲章となる。写真撮影やオリジナルラベルづくりなども用意されており、体験を“形”として持ち帰れる点も魅力のひとつ。
外国からの旅行者にも非常に人気のあるプログラムであり、英語対応スタッフや多言語のレシピ資料が用意されている。箸の使い方から握り方まで、文化体験としての価値が高く、「自分の国に帰っても作ってみたい」と話す声も多い。
おにぎりは、日本人にとってごく身近な食べもの。でも、だからこそ、そこに込められた知恵や工夫、手のぬくもりを改めて知ることは、自分の食と暮らしを見つめ直すことにもつながる。旅の途中で握ったひとつのおにぎりが、その人の記憶に残る“最初の味”になるかもしれない。




