日本料理の味を語る上で欠かせないのが「だし」である。味噌汁や煮物、うどん、茶碗蒸しに至るまで、多くの料理の土台を支えているのがこの透明な旨味の層だ。旅先でこの“だし”の秘密に迫る体験型の教室に参加することで、日本の家庭料理に流れる深い知恵と、繊細な味覚の世界に触れることができる。
だしには、昆布、かつお節、煮干し、干し椎茸などの自然素材が使われる。これらを時間や温度に気を配りながら丁寧に煮出すことで、化学調味料では再現できない複雑でやさしい味わいが生まれる。食育教室では、これらの素材を実際に手に取って香りを確かめ、水に浸してだしを引く工程を学ぶ。素材ごとの香りの違いや、組み合わせによって味がどのように変化するかを、体験を通して感じ取れるように構成されている。
特に外国人にとって、日本の「旨味」という感覚は新鮮に映ることが多い。甘味、酸味、塩味、苦味に次ぐ第五の味とされる旨味は、言葉では説明しにくいが、実際にだしを味わうことで初めてその存在が腑に落ちる。食育教室では、何種類かのだしを試飲するコーナーがあり、昆布だけのだし、かつお節だけのだし、それらを合わせただしの違いを舌で比べる体験が好評を得ている。
このような教室は親子連れにも適している。子どもたちは、だしの材料を削ったり、水に入れたりといったシンプルな作業に参加することで、料理の基礎を自然と学んでいく。また、自分たちで引いただしを使って味噌汁やお吸い物を作るプログラムも用意されていることが多く、出来上がった料理をその場で味わう時間が、記憶に残る学びとなる。
だしの文化は、日本の食卓における「目立たないけれど大切なもの」の象徴でもある。素材を尊重し、余計な味を足さず、持ち味を引き出すという考え方は、日本人の美意識そのものといえる。だからこそ、だしを学ぶことは単なる調理技術の習得ではなく、日本文化の価値観そのものを知る入り口でもある。
教室によっては、英語や多言語での解説が用意されているところもあり、食の背景にある歴史や地域差なども含めて丁寧に紹介される。だし文化の成り立ちを学びつつ、地元で採れた昆布や節の話を聞くことで、地域と食とのつながりにも意識が向くようになる。
旅の中で「食べる」から一歩進んで「知る」「つくる」という体験を加えると、旅の意味が深まる。だしの食育教室は、そうした深い旅の記憶をつくるきっかけとして、多くの人にとって印象的なひとときになる。食を通じて文化を学ぶその時間は、何よりも心と舌に残る贈り物となる。