最近の日本の賃貸物件では、「インターネット無料」や「Wi-Fi付き」という言葉が広告に多く見られるようになっている。毎月の通信費を節約できるという点で、特に一人暮らしの人や学生、外国籍の入居者にとっては大きな魅力といえる。
しかし、実際に入居してみると「通信速度が遅くて動画が見られない」「Wi-Fiが部屋まで届かない」「ルーターは自分で用意する必要があった」など、事前のイメージと異なる事態に直面することがある。
このようなトラブルの背景には、「インターネット無料」と書かれていても、その内容や条件が物件ごとに大きく異なるという現実がある。この記事では、「無料」という言葉の裏にある制限事項や見落としやすいポイントについて、事実に基づいて解説する。
「無料」の意味は物件ごとに異なる
「インターネット無料」という表記は、入居者が月々の通信料金を別途支払う必要がないことを意味している。だが、その提供方法には複数のパターンが存在する。
ひとつは、建物全体で契約している共有回線を各部屋で利用するタイプ。もうひとつは、各部屋に個別の回線が引かれており、それを無料で使えるというタイプ。多くの物件では前者の方式が採用されており、通信の混雑や速度低下が起こりやすい。
また、「ネット無料」とあっても、それが有線接続なのか無線接続なのか、ルーターが備え付けられているかどうか、契約手続きが別途必要なのかなど、詳細を確認しないと実際の使い勝手が見えてこない。
通信速度が十分でない場合がある
共有タイプのインターネットでは、建物全体に1本の回線を引き、複数の入居者が同時に使用する形式になっている。これにより、夜間や週末などの利用が集中する時間帯には通信速度が著しく低下することがある。
オンライン会議、動画配信、高画質の通話、オンラインゲームなど、通信速度や安定性を求める用途には対応しきれないことがあり、事実上「使えない」と感じることもある。
広告には「最大1Gbps」といった表記がされていることもあるが、これは理論上の最高速度であり、実際にその速度が出ることはほとんどない。実測値は設備状況や他の利用者の数に大きく左右される。
個別契約ができない場合もある
入居後に「無料の回線では満足できないから、自分で新しく回線を引きたい」と考える人もいるが、物件によっては個別契約が許可されていない場合がある。
たとえば、建物の構造や管理方針により、新たな配線工事ができない、または貸主が許可しないといったケースがある。工事のために壁に穴を開けたり、共用部を通して配線を行う必要がある場合には、管理組合の承認も必要となる。
このような場合、インターネット環境が不十分でも「無料回線を使うしかない」という制限がかかり、入居者は選択の余地を失うことになる。
使用開始の手続きが必要なこともある
「無料だからすぐに使える」と思っていたのに、入居後に「プロバイダーへ利用登録が必要」「管理会社に申請が必要」「IDとパスワードがないと使えない」など、事前に知らされていなかった手続きが必要になることがある。
これにより、入居してすぐにはインターネットが使えず、数日から1週間程度の待機期間が発生することもある。特に在宅勤務やオンライン授業を前提として引っ越しをしてきた場合には、大きな問題となる。
内見や契約前の段階で、「ネット無料とはどういう形で提供されているか」「手続きは必要か」「いつから使えるか」を具体的に確認しておくことが望ましい。
セキュリティが弱い場合がある
無料で提供されているインターネットの中には、パスワードが共通、または未設定の状態で運用されていることもある。こうした共有型ネットワークでは、第三者が簡単に接続できてしまい、個人情報の流出や通信内容の傍受といったリスクも存在する。
自分でWi-Fiルーターを設置し、独自のネットワークを構築することである程度の対策はできるが、それも物件の構造や契約内容によって制限されていることがある。
不安がある場合には、個人契約が可能かどうかを確認したうえで、セキュリティが強固な通信環境を自分で整えることも選択肢に入れておくべきである。
ルーターやケーブルが入居者負担となることも
無料インターネットが提供されていても、実際に接続するためのWi-FiルーターやLANケーブル、変換アダプターなどは入居者自身で用意しなければならない場合がある。
備え付けのルーターがない、あるいは機種が古く、十分な通信ができないといった問題もあるため、契約前に「何が備え付けられていて、何を自分で用意する必要があるか」を確認しておくとトラブルを避けやすくなる。