日本の賃貸住宅、特にアパートやマンションなどの集合住宅では、「共用部(きょうようぶ)」と呼ばれる住人全員が利用・通行する空間が存在する。たとえば、エントランス、エレベーター、廊下、階段、ゴミ置き場、自転車置き場などがそれにあたる。
一見すると自由に使えるように見える共用部だが、そこには明確な「使用ルール」が存在しており、それを知らずに使ってしまうと他の住人からの苦情や、管理会社からの注意、最悪の場合は契約違反とみなされることもある。
この記事では、共用部に関するトラブル事例をもとに、ルールの基本と入居者としての適切なふるまいについて、事実に基づいて解説する。
そもそも「共用部」とは?
共用部とは、建物全体の住人が共同で使用する場所のことを指す。個人の居住空間(専有部)とは異なり、所有権や使用権を特定の人が独占することはできない。
代表的な共用部には以下がある:
-
エントランスホール
-
共用廊下・階段
-
エレベーター内部・前スペース
-
駐輪場・駐車場
-
ゴミ集積所
-
集会室・ロビー(設置がある場合)
-
建物周囲の植栽エリアやベンチなど
これらの場所は、管理規約や賃貸契約書で使用方法が細かく定められていることが多く、自由な使用が制限されていることもある。
トラブル事例1:廊下に私物を置いて苦情に
ある入居者が玄関前の共用廊下に、傘立て、植木鉢、ゴミ袋、ベビーカーなどを一時的に置いていたところ、隣の住人から「通行の邪魔になる」「避難経路をふさいでいる」と苦情が入り、管理会社から撤去命令を受けた。
問題の本質
共用廊下は「避難経路」としても位置づけられており、火災や災害時に支障が出るような物の放置は消防法違反とみなされる可能性がある。
対応のポイント
-
廊下・階段には原則として私物を置かない
-
傘やスリッパなども「一時的」でも注意対象になることがある
-
必要なものは専有部内、または専用の収納スペースに保管する
トラブル事例2:駐輪場の無断使用で注意を受けた
新しく入居した住人が、契約書を読まずに建物内の駐輪スペースに自転車を停め続けていた。しばらくすると管理会社から「許可のない駐輪は禁止されています」との通知が届き、自転車を撤去するよう命じられた。
問題の本質
多くの集合住宅では、駐輪には「登録制」「シール貼付制」「台数制限」などのルールがある。未登録のまま利用していると、放置自転車と判断され、撤去されるリスクがある。
対応のポイント
-
駐輪スペースを使いたい場合は、必ず事前申請をする
-
シールが配布されている場合は、所定の位置に貼る
-
1世帯あたりの台数制限があるかどうかも確認する
トラブル事例3:ゴミ出しマナーを守らず注意を受けた
別の入居者は、ゴミ出しの日を間違えて出したり、分別せずに出してしまい、周辺住民からの通報で管理会社から警告を受けた。近隣ではカラスや猫によるゴミの散乱も発生し、建物全体の印象が悪化した。
問題の本質
日本では自治体ごとにゴミ出しのルールが厳しく定められており、それに加えて建物独自のルールもある。ルールを守らないと、建物の全体責任で行政からの指導を受けることもある。
対応のポイント
-
指定の曜日・時間・ゴミ袋を確認する
-
分別ルールを自治体のホームページや掲示板で確認する
-
建物専用のゴミ置き場にしか出さない
トラブル事例4:エントランスでの荷物放置
宅配物の受け取りを逃した入居者が、エントランスに届いたままの段ボールを数日間放置していたところ、他の住人から「景観を損ねる」「防犯上よくない」とクレームが入り、注意喚起の張り紙が貼られる事態になった。
問題の本質
エントランスや共用ロビーは、不特定多数の入居者が利用する場所であり、個人の荷物やゴミの一時保管所ではない。美観・安全・他人の通行権を阻害する行為とみなされる。
対応のポイント
-
宅配ボックスや宅配便は、できるだけ早く回収する
-
管理会社に保管を頼むことはできないか事前に相談しておく
-
大型家具や粗大ゴミの一時放置は禁止されることが多い
入居前に確認すべき「共用部ルール」
契約書や管理規約には、共用部に関するルールが細かく記載されていることが多い。入居時には以下の項目を必ず確認しておこう:
-
廊下や階段に物を置いてよいか
-
駐輪スペースの申請方法と使用条件
-
ゴミ出しの曜日・分別・出す場所
-
宅配ボックスの使用方法
-
来客用駐車場や共用施設の利用ルール
-
ペットの通行や一時待機が許されるか
不明な点がある場合は、管理会社に問い合わせることで、後々のトラブルを回避しやすくなる。
共用部は「みんなの空間」
共用部は個人の延長ではなく、「他の住人と共有する空間」であるという意識が重要である。自分は気にならないと思っていても、他の住人にとっては不快・不便と感じる行動がある。トラブルを未然に防ぐためには、まず「共用」の意味を理解し、ルールに従った使用を心がけることが最も大切である。