初めて日本を訪れたとき、真っ先に衝撃を受けたのは、寺でもなく寿司でもなく、ドラッグストアだった。ホテルの近くにあった小さな店舗に何気なく入ったつもりが、気づけば3時間も経っていた。観光地ではなく、日用品の売り場でこれほど時間を過ごすとは思いもしなかったが、それほどまでに日本のドラッグストアには、日常と非日常が混ざったような不思議な魅力があった。
まず驚いたのは、取り扱っている商品の種類と細かさである。歯磨き粉だけでも十数種類、湿布は効き目別に棚が並び、シャンプーや日焼け止めは香りや成分の違いでずらりと揃う。どれもが整然と並び、パッケージには詳しい説明が添えられている。しかも、棚の上には手書きのPOPやミニ情報があり、読むだけでも商品への理解が深まる。まるで商品一つひとつが小さな展示のように感じられた。
中でも目を奪われたのが、フェイスマスクや美容液のコーナーだった。韓国や台湾にも美容製品は多いが、日本の製品は「使う楽しさ」まで設計されているように思えた。パッケージには季節限定や香り違い、肌悩み別などの工夫が凝らされており、思わず手に取ってしまうような引力がある。テスターも豊富で、店員の声かけも控えめ。ひとりで自由に商品と向き合える空間は、観光の緊張を一気にほぐしてくれた。
また、医薬品の品ぞろえにも圧倒された。風邪薬、胃薬、目薬、貼り薬。日本語が読めなくても、パッケージのデザインやアイコン表示でなんとなく用途がわかるようになっていることにも驚いた。特に目薬や湿布は、海外では見かけないタイプのものが多く、ちょっとしたお土産としても人気がある理由がわかる気がした。
日用品コーナーには、ポケットサイズの洗剤、使い捨ての下着、持ち歩ける加湿グッズなど、旅先で「あると助かるもの」が自然に揃っていた。観光客向けに用意されたわけではないはずなのに、訪れる側のニーズを先回りしたような品ぞろえに、日本人の生活感覚の細やかさを感じた。
レジの脇には免税の案内があり、複数言語に対応したスタッフが在籍している店舗も増えている。購入後の包装も丁寧で、化粧品などは中身が見えないように個包装され、袋に入れて手渡される。そのひとつひとつの所作が心地よく、買い物という行為そのものがサービスとして成立していることを実感した。
観光ガイドには載っていないが、日本を感じる場所として、ドラッグストアは外せないと感じた。日々の暮らしに密着した商品が並び、それを扱う人々の気配や文化が詰まっている。観光名所を歩き回ったあとでふと立ち寄る、そんな店先にこそ、旅の本質的な出会いがあるのかもしれない。
思いがけず長居してしまったその時間は、決して無駄ではなかった。むしろ、日本という国の空気を一番近くで感じられる場所だったと思っている。買ったものをスーツケースに詰めながら、また次に来たときも、まずドラッグストアに行こうと心に決めた。旅の目的はきっと、こういうところにこそ宿るのだと気づかせてくれた時間だった。