2025/06/19
原状回復トラブル回避には入居前の記録が命

「退去時に高額な修繕費を請求された」
「もともとあった傷まで自分の責任にされた」

賃貸住宅でよく聞かれるこのような原状回復トラブル。その多くは、入居時にしっかりとした記録を残していなかったことが原因で起きている。

不動産会社やオーナーと揉めたくないと思っていたのに、結果として納得できない請求を受けてしまう――そんな事態を防ぐために、最も効果的な方法が「入居前の記録」である。

この記事では、原状回復の仕組みと、入居時にどのような記録をどのように残すべきかを、実務ベースでわかりやすく解説する。


「原状回復」のルールとは?

まず知っておきたいのは、「原状回復=完全に元通りに戻す」ではない、ということ。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、経年劣化や通常損耗(自然に起きる変化)は借主の負担にはならないとされている。

借主が負担しなくてよい例(通常損耗):

  • 家具の設置跡(カーペットや壁紙のへこみ)

  • 日焼けによる壁紙の変色

  • 入居時点からあった傷や汚れ

  • 通常使用によるフローリングの摩耗

借主が負担する例(故意・過失):

  • タバコのヤニや臭いの付着

  • 壁への釘・ネジ穴

  • ペットによる傷・汚れ

  • 水回りのカビや放置汚れ

この線引きをめぐって争いになることが多く、入居時点の状態をきちんと記録していれば、不要な負担を避けられる。


なぜ「入居前の記録」が有効なのか?

退去時には、管理会社やオーナーが室内をチェックし、「どの箇所を借主負担とするか」を判断する。その際、入居前からあった傷や汚れを証明できなければ、借主の過失と見なされる可能性が高い。

「もともとこうなっていた」と口で言っても、記録がなければ反証できない。
だからこそ、“入居前の状態”を写真や書面で残しておくことが、最大の防御策になる。


入居前にしておくべき記録の具体的な方法

✅ 1. 写真・動画を撮る

スマートフォンで構わないので、入居前の室内を細かく撮影する。
特に以下のポイントはトラブルが起きやすいため、必ず押さえておきたい。

部位 チェックポイント
壁・クロス 汚れ、キズ、はがれ、釘穴など
床・フローリング 傷、へこみ、浮き、変色
ドア・建具 キズ、建て付けのズレ、開閉音
キッチン シンクのサビ、油汚れ、蛇口の水漏れ
浴室・洗面 カビ、排水口の詰まり、水漏れ
トイレ 便座のぐらつき、水の流れ具合
窓・サッシ 網戸の破れ、結露の跡、窓ガラスのヒビ
エアコン・照明 傷・動作確認・リモコンの有無

※撮影の際は、日付と部位がわかるように撮ることが重要
動画で「歩きながら解説」する形式も証拠力が強くて有効。


✅ 2. チェックリストで記録を残す

物件によっては「入居時チェックシート」が用意されていることもあるが、なければ自分で簡単な表を作っておくとよい。

例:

チェック箇所 状態 写真あり 備考
壁(リビング) 小さな剥がれあり 左側角付近
床(玄関) 傷あり 既存のへこみ確認

これを管理会社にもコピーを送っておくことで、後日の証拠として有効になる。


✅ 3. メールで記録を共有しておく

撮影した写真やチェックリストは、入居から1週間以内に管理会社やオーナーにメールで共有しておくとさらに安心。

例文:

入居前に室内を確認したところ、いくつか既存の傷や汚れがありました。
トラブル防止のため、念のため写真を共有いたします。ご確認のほどよろしくお願いいたします。

送信履歴があれば、トラブル時にも「入居時に報告済み」という事実を示すことができる。


入居直後に異常を見つけたらすぐ報告

「住み始めてみて気づいた設備の不具合」や「最初から調子の悪いエアコン・蛇口の水漏れ」などは、発見した時点でできるだけ早く報告することが重要

報告が遅れると「入居後に壊したのでは?」と誤解される可能性もある。


退去時に慌てないための“二重の備え”

退去時に揉めやすいのは、以下のようなパターン:

  • 「床の傷」が借主の責任とされて数万円請求された

  • 「壁紙全体張り替え」の費用を負担させられた

  • 「カビのクリーニング費用」が借主側負担になった

こうした事態を防ぐには:

  1. 入居前に記録を残す(証拠)

  2. 原状回復のルールを知っておく(知識)

この2つの備えがあれば、退去時に「不当な請求」を受けるリスクを大幅に減らすことができる。


賃貸の契約は“証拠がすべて”

賃貸契約では、「貸主」と「借主」の情報や立場に差があるのが現実。
だからこそ、口頭ではなく記録、感覚ではなく証拠で自分を守ることが重要だ。

丁寧に住んでいても、記録がなければ言い分が通らないこともある。
「何もなかったから撮らなくていい」は、「いざというときに守るものがない」と同じ。

入居時の数十分の確認と記録が、退去時の数万円の差を生むことになるかもしれない。