日本の中心に位置する名古屋は、観光とビジネスの拠点として知られる一方で、他の地域にはない“独自の食文化”を築き上げてきた都市でもある。なかでも「ひつまぶし」「味噌カツ」「手羽先」の三大名物は、訪れたなら一度は本場で味わっておきたい料理ばかり。限られた時間でも存分に堪能できるグルメルートを辿ることで、名古屋の奥深さを五感で体験できる。
まず外せないのが「ひつまぶし」。香ばしく焼かれたうなぎをご飯の上に乗せ、三通りの食べ方で楽しむのが特徴だ。最初はそのまま、次に薬味を添えて、最後は出汁をかけてお茶漬け風に。老舗の専門店では、職人の手で丁寧に焼かれた蒲焼の香りが漂い、口に入れた瞬間に炭火の香ばしさと脂の旨みが広がる。名駅や栄エリアの有名店は行列必至だが、待つ価値は十分にある。
続いては「味噌カツ」。名古屋で“カツ”といえば、濃厚な赤味噌ベースのタレがかかっているのが当たり前。トンカツに甘じょっぱい八丁味噌だれがたっぷりかかったひと皿は、初めての人には驚きの味わいかもしれないが、食べ進めるほどにクセになる。味噌の風味とカツのジューシーさが絶妙に絡み合い、ご飯が進む一品だ。定食スタイルでも、サンドイッチや丼でも楽しめる汎用性の高さも魅力。
そして「手羽先」。名古屋名物として全国に知られるようになったこの料理は、実は店舗ごとに味付けやスタイルが異なる。カリッと揚げてタレにくぐらせたもの、スパイスを効かせたピリ辛系、塩味ベースで素材の旨みを際立たせたものなど、好みに応じて食べ比べが楽しい。地元の居酒屋では、手羽先にビールを合わせるのが定番で、複数人でシェアしながら賑やかに楽しめるのが魅力。
グルメ巡りの合間には、「小倉トースト」や「きしめん」「天むす」などのローカル軽食にも目を向けたい。モーニング文化が根付く名古屋では、朝の喫茶店巡りも旅の楽しみのひとつ。コーヒーを頼むと厚切りトーストとゆで卵が無料でついてくるなど、地域ならではの温かさに触れる機会が広がっている。
名古屋の食文化は、濃厚で個性的。それでいて、どこか懐かしさと家庭的な温もりを感じさせる味わいがある。一度にすべてを制覇するのは難しいかもしれないが、2泊3日ほどあれば主要な名物を一通り楽しめるだろう。観光地とセットにしたグルメ旅ではなく、「食べること」そのものが目的となるような滞在が、名古屋という都市の本質を教えてくれる。