2025/06/28
和歌山・高野山で心を整える“お寺ステイ”体験とアクセス方法

和歌山県北部、標高およそ800メートルの山上に広がる高野山は、1200年以上の歴史を持つ日本仏教の聖地。真言密教の開祖・空海(弘法大師)が開いたこの地には、今も静けさと祈りの空気が漂っている。世界遺産にも登録された高野山で、“お寺に泊まる”という非日常の体験を通して、心と体を整える時間が、静かに深く流れていく。

高野山には、一般の宿泊者を受け入れている「宿坊(しゅくぼう)」が50以上あり、誰でも気軽に利用できる。宿坊では、畳敷きの清潔な和室に泊まり、朝夕には精進料理が供され、朝のお勤めや写経、座禅といった修行体験に参加することもできる。形式ばった厳しさはなく、静かであたたかなもてなしの中に、修行道場としての誇りと信仰が息づいている。

夕食に出される精進料理は、肉や魚、五葷(にんにく・ねぎなど)を使わず、野菜や豆、山菜を中心に構成された滋味深い献立。地元・高野山の湧き水や旬の素材を生かした一品一品は、見た目にも美しく、心まで洗われるような満足感がある。食べ終えた後に感じるのは、腹八分目の心地よさと、過剰から解き放たれた軽さだ。

夜は、境内をゆっくりと歩くのがおすすめ。ライトアップされた金剛峯寺や根本大塔、そして幽玄な奥之院の参道では、昼間とは違った表情の高野山と出会える。とりわけ奥之院は、樹齢数百年の杉並木と無数の石灯籠に包まれた幻想的な空間で、歴史ある墓所を前に自然と背筋が伸びる。夜の静寂の中で響く足音と、ほのかな灯りだけが導いてくれるこの時間は、高野山でしか得られない“内なる旅”と言える。

朝はまだ薄暗い時間に、読経の音とともに目覚める。宿坊での朝のお勤めに参加すれば、僧侶の読経と鐘の音に包まれ、心が静かに整っていくのを感じるはず。観光ではなく“体感”を求める人にこそ、この体験は深く響くだろう。

アクセス方法

高野山へのアクセスは、公共交通機関でもスムーズ。大阪なんば駅から南海高野線の特急または急行に乗り、終点の「極楽橋駅」へ(所要約1時間40分)。そこからはケーブルカーに乗り換え、「高野山駅」まで約5分。駅からはバスで中心部へアクセスできる。山道ではあるが、鉄道とケーブルカーがしっかり整備されており、移動そのものが“山に入る”という儀式のような旅になる。

車の場合は、京奈和自動車道や阪和自動車道から高野龍神スカイラインを経由してアクセス可能。ただし冬季は積雪・凍結の恐れもあるため、季節ごとの注意が必要だ。


高野山は、観光地ではなく“祈りの空間”。華やかさはなくとも、そこに流れる時間は確かで、過剰な情報や刺激から距離を置くには最適な場所である。静けさと敬意を胸に、ひととき日常を離れて、心の声に耳を澄ませてみてはいかがだろうか。