日本を旅していて、観光地のにぎわいを抜けた先でふと出会うのが、小さな和風雑貨店。木の引き戸を開けた瞬間にふわっと香る和紙の匂い、棚に丁寧に並べられた小物たち、やわらかな照明に包まれた空間。入った瞬間、時間がゆっくりと流れ出すような感覚に包まれ、「何も買うつもりじゃなかったのに、全部欲しくなってしまう」そんな不思議な魔力がそこにはあった。
棚には豆皿、手ぬぐい、箸置き、硝子の風鈴、小さな置物、ぽち袋、和紙の便箋、香立て、竹のかごなどが、ひとつひとつ違う表情で並んでいる。それぞれが職人の手によって作られた一点物も多く、同じものは二度と出会えないかもしれないという気持ちが、心をくすぐる。どれもコンパクトで、実用的で、かつ美しい。日常の中で静かに寄り添ってくれそうな存在感がある。
特に心惹かれたのは、和紙や布を使った小物たちだった。淡い色合いのポーチや、季節の花をモチーフにしたコースター、手染めのハンカチ。どれも手に取ると、やわらかな質感と、細やかな意匠に驚かされる。派手ではないのに、じわじわと存在感を放つ。それは、日本らしい「控えめな美しさ」の象徴のようにも感じられた。
一角には、四季をテーマにした雑貨コーナーもあり、春には桜柄、夏には金魚や朝顔、秋は紅葉、冬は椿や雪うさぎ。見ているだけで季節を感じられ、日本の感性の細やかさに改めて感動する。季節が変わるたびに店の雰囲気も少しずつ変わり、何度訪れても飽きることがない。
包装紙やぽち袋、便箋といった紙ものも、思わずまとめ買いしたくなるほど美しい。金や銀の箔押し、浮き出し模様、水彩のようなぼかし。どれも書く前からすでに“作品”のようで、大切な人に手紙を書きたくなる。たとえ言葉が少なくても、その紙が伝えてくれる思いがあるように思えた。
店主が選んだ器や雑貨は、量販店では出会えないような独自のセンスが光っていて、ひとつひとつに背景やストーリーがあるのも魅力だった。「これは岐阜の窯元から仕入れたものです」「この風鈴は江戸時代の製法を守っていて、音が柔らかいんです」そんな話を聞くたびに、買い物というより“ものとの出会い”が重なっていく感覚になる。
価格帯も手が届く範囲が多く、自分用のお土産としてはもちろん、友人や家族への贈り物にもぴったり。軽くてかさばらず、スーツケースのすき間に入れて持ち帰れるものばかりなのもうれしい。しかも、日常の中でふと目にするたびに、その旅の情景がよみがえる。雑貨は記念品であり、心のタイムカプセルでもある。
和風雑貨店は、ただ商品を買う場所ではなかった。そこには、日本人の暮らしの知恵や美意識、四季との向き合い方、そして人をもてなす気持ちが、静かに詰まっていた。観光名所のような派手さはなくても、深く心に残る“旅の発見”があった。
次に日本を訪れるときも、あの静かな雑貨店を探したい。そしてまた、ひとつひとつの棚をじっくり眺めながら、自分だけの“連れて帰りたくなる小さな物語”を見つけたい。和風雑貨の世界は、暮らしの中に日本を持ち帰る方法のひとつだと、心から感じた。