2025/07/03
地方に1週間滞在して“暮らすように旅する”提案 観光ではなく、風景の一部として過ごす日々

旅というと、数日間で観光地をめぐり、名物を食べて、写真を撮って帰る──そんなイメージがまだ主流かもしれない。けれど今、「その土地に1週間滞在する」という選択をする人が少しずつ増えている。見るだけではなく、住むように。消費するのではなく、関わるように。地方での“暮らす旅”は、心を整えるとともに、新しい価値観との出会いをもたらしてくれる。

この旅のスタイルは、いわゆる観光地よりも、少しゆっくりとした時間が流れる地方の町や村が舞台になる。海辺の漁村、山間の集落、城下町の旧市街、あるいは地方都市の商店街の近くなど、どこかに「暮らしのにおい」が残る場所。その中にあるゲストハウスや一棟貸しの古民家、地域とつながった滞在型施設が拠点になる。

1週間という期間は、観光には長く、移住には短い。けれどちょうどいい“滞在の中間点”として、自炊をしたり、スーパーや直売所に通ったり、顔なじみのカフェができたりと、「生活のような旅」の土台を築くには十分な長さでもある。

この滞在プランでは、最初から予定を詰めないことがすすめられる。むしろ“何をしないか”を決めておくことが大切になる。毎日出かけなくてもいい。風が気持ちいい日はベランダで本を読む。午後は商店街の喫茶店で過ごす。夜は地元の人に教えてもらった食材で、台所に立つ。そんな一日一日が、確かに“その土地で過ごした時間”として積み重なっていく。

親子での滞在では、地域の子どもとふれあえる遊び場や、図書館、自然体験プログラムへの参加なども組み込めるよう工夫されている。子どもがその土地の方言に出会い、名前を呼ばれて遊ぶ姿は、旅先というより「もう一つの暮らし」を生きているような光景になる。

また、大人にとっても「役割のない時間」を味わえるのがこの旅の魅力だ。仕事や家事、日常の責任を一度横に置いて、ただ目の前のことに向き合う時間。観光地を巡ることだけが旅ではないと知るこの数日間は、自分の中の“余白”を取り戻すきっかけにもなる。

地域によっては、滞在者に向けた交流イベントや、おすそわけ文化のようなやりとりも自然に存在している。お隣さんからおすそわけされた野菜を料理してお返しを考えたり、「よかったらこれ使って」と工具を貸してもらったり。そうした関係性のなかにいることで、「ただの旅人」から「一時の住人」へと心が動いていく。

外国人旅行者にとっても、この1週間の暮らす旅は、日本文化の奥行きを体感するための格好の機会となる。観光名所では出会えない日常の空気、地域の人とのふれあい、食や言葉の違いをゆっくりと受け入れながら、その土地のリズムに自分を重ねていくことができる。

「また来たい」ではなく、「ただいま」と言いたくなる場所を、旅の中で見つける──そんな感覚を大切にできるのが、“暮らすように旅する”という選択だ。

1週間という少し長めの時間の中で、慌ただしさのない旅を重ねていく。その旅が終わるころ、自分の中にも“静かな変化”が生まれていることにきっと気づく。