2025/06/28
大内宿の茅葺き屋根とそばを味わう|南会津エリアの隠れた魅力

福島県南部の山間に位置する大内宿は、江戸時代の宿場町の姿を今に残す数少ない集落のひとつだ。会津西街道の宿場として栄えた歴史を背景に、茅葺き屋根の家屋が並ぶ風景は、都市生活とはかけ離れた時間の流れを感じさせてくれる。観光地としての派手さはないが、その素朴さこそがこの土地の魅力を引き立てている。

大内宿へは会津若松から車で約1時間半。冬場を除けばバスも運行しており、公共交通でも訪れることができる。道中はのどかな山村風景が広がり、四季ごとに表情を変える自然が旅人を包み込む。春には新緑、夏は濃い緑と川のせせらぎ、秋には紅葉が山肌を彩り、冬は一面の雪景色となる。

到着すると、緩やかな坂道の両脇に茅葺き屋根の建物がずらりと並び、まるで時代劇のセットの中に足を踏み入れたような感覚を覚える。実際に人が暮らしている家も多く、観光地でありながら生活の気配が漂っているのも大内宿の特徴だ。建物の多くは土産物店や食事処として営業しており、歩くだけで昔ながらの暮らしの息遣いが感じられる。

この土地を訪れたなら、ぜひ味わいたいのが名物の「ねぎそば」。器に盛られた手打ちそばを、長ネギ1本を箸代わりにして食べる独特のスタイルは、見た目のインパクトだけでなく、味わいも素朴で美味しい。そばの香りと出汁の優しい味わいが、旅の疲れをそっと癒やしてくれる。もちろん、普通の箸で食べることもできるが、旅の思い出としてネギに挑戦してみるのも一興だ。

食後は、坂の上まで歩いて振り返ってみてほしい。街道全体が一望できるビュースポットがあり、茅葺き屋根が整然と並ぶ風景は写真映えも抜群。天候がよければ、遠くの山並みと家並みが美しいコントラストを描く。四季折々の空気を感じながら、風景に溶け込むようにして過ごす時間は、日常では得難い静けさを与えてくれる。

土産には地元の木工品や手作りの漬物、そば粉を使った菓子など、素朴ながらも丁寧に作られたものが並ぶ。旅の記憶を持ち帰るにはぴったりの品々だ。人の手で守られてきた景観と文化が、さりげなく生活の中に息づいている様子もまた、この集落の魅力のひとつといえる。

大内宿は、多くを語らないが、多くを感じさせる場所だ。派手な観光スポットではなく、静かに時間を過ごすことで価値が深まる。南会津の山あいで、心が緩むような旅をしたい人にこそ、訪れてほしい場所である。