2025/07/03
小さな“ありがとう”をたくさん見つける旅 感謝のアンテナが育てる、やさしいまなざし

旅の途中で誰かが笑いかけてくれた。忘れ物に気づいて届けてくれた。お茶のおかわりをそっと注いでくれた。そんな何気ない瞬間に、「ありがとう」という言葉が、心からすっと出てくる。けれどその感謝は、時に小さすぎて見逃してしまうものでもある。「小さな“ありがとう”をたくさん見つける旅」は、そんな一つひとつの思いやりに気づく“感謝の感性”を育てる旅である。

この体験は、特定のワークショップではなく、旅全体の過ごし方に目を向ける提案として用意されていることが多い。チェックイン時に渡される「ありがとうカード」、旅先での“感謝ノート”、またはシールやスタンプで記録する“ありがとうラリー”といった工夫が用意され、滞在中に感じた小さな「ありがとう」を記録していく。

たとえば、スタッフが笑顔で迎えてくれたとき、食事の配膳で声をかけてもらったとき、温泉で年配の方に場所を譲ってもらったとき──そうした一瞬を見過ごさず、「いま、ありがとうと思えた」と自分でキャッチする練習をする。たとえ口に出さなくても、その気持ちを記録することで、感謝の視点が少しずつ自分の中に根づいていく。

親子での参加では、子どもが“ありがとう探し”に夢中になる姿が印象的だ。「あの人がドアを開けてくれた」「おみやげ屋さんが話しかけてくれた」など、いつもは通り過ぎる出来事の中に“気持ちを受け取る体験”が詰まっていることに気づく。大人にとっても、「こんなにたくさんのありがとうがあるんだ」と、日々の感謝が“見える化”されることで、心の景色が変わってくる。

中には、旅の終わりに「ありがとうマップ」や「ありがとうポストカード」をつくる時間が設けられている施設もある。誰に感謝したのか、どんな気持ちだったのかを一言書き添えて、それを自分宛てや旅先の人に贈る。小さなアクションではあるが、それが“伝える感謝”へとつながることで、旅にもう一つ深い意味が加わる。

こうした取り組みは、感謝を“習慣”にする入口にもなる。旅先で出会ったやさしさに目を向けることで、日常の中でも同じ視点を持つようになる。「ありがとう」をたくさん見つけた人ほど、人にやさしくなれる──その感覚を、旅の時間の中で少しずつ育てていく。

外国人旅行者にとっても、「ありがとう」はもっとも身近で、美しい日本語のひとつとして記憶に残る言葉だ。文化や言葉の違いを超えて、「Thank you」「ありがとう」「コップンカー」など、さまざまな感謝の言葉が交差する旅の時間は、互いの理解と敬意を育てる土台となる。

「ありがとう」は、贈る側にも、受け取る側にも、やわらかく作用する。声に出すことで、表情が変わり、空気が変わり、自分の心が穏やかになる。旅のなかでその言葉をたくさん集めるということは、自分の内側を静かに満たす作業でもある。

旅先で拾った、ささやかな“ありがとう”たち。それらは帰り道のリュックにそっと忍ばせる、見えないおみやげになる。そしてきっと、日常のなかでふと立ち止まり、「ありがとう」と言いたくなる瞬間を増やしてくれる。