2025/06/27
山形・銀山温泉の大正ロマンに浸る|東京からの週末プラン

山形県の山あいにひっそりと佇む銀山温泉は、大正時代の趣を色濃く残す温泉街として知られている。木造三層の旅館が川沿いに立ち並び、ガス灯がやわらかく灯る夕暮れ時の景観は、まるで映画の中に入り込んだかのような感覚を与えてくれる。東京からのアクセスも良好で、週末を使って日常を離れるにはぴったりの目的地である。

東京駅から山形新幹線に乗り、およそ3時間で大石田駅に到着。そこからは車または路線バスで40分ほど山を登ると、突然、時が止まったような空間が目の前に現れる。道幅の狭い温泉街を流れる銀山川、その両岸に並ぶ木造建築群、橋の上を渡る浴衣姿の宿泊客。近代化とは距離を置いたこの町並みは、観光というよりも“体験”としての価値がある。

銀山温泉の歴史は江戸時代の銀鉱山に由来しており、かつての鉱山労働者たちのために開かれた湯治場が発展してきた。現在では、その歴史を尊重したまま丁寧に整備されており、レトロな旅館とモダンな快適さが融合している。中には創業100年を超える老舗もあり、館内の家具や照明、壁紙までが時代背景を物語っている。

到着後は、まずは宿の浴衣に着替え、温泉街の散策から始めたい。橋を渡りながら、足元を流れる清流と建物の反射が作る風景を楽しむだけで、旅の目的は半ば達成されたような気分になる。足湯や地元のカフェ、和菓子店に立ち寄ると、どこか懐かしい温もりが感じられる。夕暮れ時にはガス灯が灯され、昼間とは違った幻想的な表情を見せる。カメラを向けたくなる瞬間が、そこかしこに溢れている。

夕食には地元の食材を活かした会席料理が供され、山形牛や山菜、地酒などが並ぶ。部屋に戻れば、窓からは川のせせらぎと行き交う人々の気配が届き、都会では味わえない静けさに包まれる。宿によっては貸切風呂や露天風呂が備えられており、湯に浸かりながら見る星空は、この上ない贅沢だ。

翌朝は、温泉街から少し歩いて白銀の滝まで足を延ばしてみたい。木漏れ日の中を歩く小道の先には、かつて鉱山として栄えた跡地があり、自然と人の歴史が交差する場所として静かな魅力を放っている。帰り道にもう一度温泉に浸かれば、身体の芯から力が抜け、週明けを迎えるためのリセットが完成する。

わずか1泊2日でも、銀山温泉の空気は旅人に深い休息と感性の刺激を与えてくれる。週末の小さな冒険先として、この“時が止まる町”は記憶に残る確かな旅先となるだろう。