2025/06/28
岡山・後楽園と倉敷美観地区を歩く|レトロとモダンが混ざる街並み

岡山県には、かつての城下町の風情と現代的な感性が心地よく共存するエリアが点在している。その代表格が、岡山市にある日本三名園のひとつ「後楽園」と、倉敷市の「美観地区」だ。歴史とアート、自然とデザイン、そして和と洋が交差するこの2つの街並みを歩く旅は、日常を忘れて感性を解き放つ時間を与えてくれる。

旅のスタートは、JR岡山駅からほど近い後楽園へ。江戸時代の大名庭園として造られたこの庭は、池泉回遊式の構成で、歩くたびに異なる景色が現れる。芝生が広がる庭園内には、茶室や能舞台、築山などが巧みに配置されており、四季折々の植栽とともに、静けさと奥行きを感じることができる。

隣接する岡山城もあわせて訪れたい。漆黒の外観から“烏城”とも呼ばれるこの天守は、後楽園の眺望にも深く関わっている。川を挟んで眺める城と庭園の調和は、過去と現在がひとつにつながるような情景であり、岡山の歴史文化を象徴する風景といえる。

岡山駅から電車で約20分、倉敷へ足をのばせば、まったく異なる空気感が広がる。倉敷美観地区は、江戸から明治時代にかけて栄えた町並みが残るエリアで、白壁の蔵屋敷となまこ壁、柳並木が続く倉敷川沿いの風景は、絵本の中に入り込んだような静謐な美しさをたたえている。

この地区では、文化とアートの香りがあちこちに漂う。大原美術館は、国内初の西洋美術中心の私設美術館として知られ、モネやエル・グレコ、モディリアーニといった名作を間近で鑑賞できる。アートに触れた後は、路地裏のカフェやクラフト雑貨の店をめぐりながら、レトロモダンな空気を全身で味わいたい。

昼食や休憩には、町家をリノベーションしたレストランや和菓子処がおすすめ。地元食材を使った創作料理や、倉敷銘菓「むらすゞめ」などの甘味が、旅の感性をより一層豊かにしてくれる。川辺に腰かけて和スイーツをいただく時間は、観光の“間”として心に残るひとときとなる。

倉敷美観地区は、単なる古い町並みではなく、過去の美意識を今に生かす「生きた街並み」。アートやデザイン、手仕事が自然に根付いており、街そのものがひとつのギャラリーのように感じられる。静かに歩くことで、細部に宿る美しさや職人たちの感性に気づけるのも、この街の魅力だ。


岡山・後楽園と倉敷美観地区を巡る旅は、日本文化の伝統と現代感覚がやわらかく結びついた“美の時間”。観光地でありながら、どこか生活のにおいがするこの土地には、急がずに味わいたい深い魅力がある。