日本を訪れてまず驚かされたことのひとつが、お店での接客だった。レジでの会計のたびに、まっすぐに体を折って深々とお辞儀をする店員さん。手渡しで商品を受け取る際の両手、ていねいな声のトーン、静かで無駄のない動き。その一連の所作に、ただ商品を買っただけなのに、まるで特別な客になったような気持ちにさせられた。
コンビニでも、百貨店でも、飲食店でも、どこへ行っても接客は一貫して丁寧だった。「いらっしゃいませ」から始まり、商品をスキャンしながらもアイコンタクトは忘れず、「ありがとうございました」で90度のお辞儀。ほんの数百円の買い物でも、その態度は変わらない。それが特別扱いではなく“普通”であることに、最初は驚き、次第に感動へと変わっていった。
日本では、「サービス」は単なる接客行為ではなく、“心を込めたもてなし”として根づいていると感じた。相手の立場に立ち、自分の仕事に責任を持つ。それがマニュアル通りであったとしても、そこに誠実さがある限り、客としては気持ちよく買い物ができる。丁寧すぎるほどの所作が、時には静かなエンターテインメントにも感じられるほどだった。
たとえば、カフェでコーヒーを受け取ったとき。カップのふたがしっかり閉まっているかを確認し、持ちやすい向きで手渡してくれる。百貨店の包装カウンターでは、贈り物の用途を聞いたうえで、リボンの結び方や袋の種類まで相談に乗ってくれる。こうした“ひと手間”の積み重ねが、接客という行為に温かみを与えている。
もうひとつ印象的だったのは、「ありがとう」の伝え方だ。会計後だけでなく、商品を受け取ったとき、袋を受け取ったとき、出口に向かうとき、それぞれの場面で「ありがとうございました」と丁寧に言葉を添えてくれる。その声が大きすぎず、小さすぎず、ちょうど心に届くトーンであることにも感心した。
もちろん、すべての接客が完璧なわけではないし、忙しい時間帯には対応が事務的になることもある。それでも基本の姿勢として「客に敬意をもって接する」という文化が、日々の中で当たり前に根づいている。その土台があるからこそ、ちょっとした言葉や仕草にも安心感が生まれるのだろう。
レストランでは、料理を提供するときに必ず一言添えられる。「おまたせしました」「ごゆっくりどうぞ」「熱いのでお気をつけください」。そうした一言が、ただ食事をするだけの時間を、心のこもった体験へと変えてくれる。旅の中でこのような場面に出会うたび、「日本に来てよかった」と思わずにいられなかった。
旅行者にとって、言葉が通じるかどうかは大きな不安要素だ。でも、日本ではたとえ言語が通じなくても、所作や空気感から相手の誠意が伝わってくる。笑顔、会釈、ていねいな手の動き。そのすべてが、相手を大切にする気持ちを表しているのだと感じた。
次に日本を訪れるときも、またこのサービスに出会いたいと思っている。単なる買い物や食事の場が、旅の中であたたかい記憶として残るのは、そこに人の思いやりがあるからだ。商品以上に心を受け取ることができる場所。それが、日本の店先に広がっている世界だった。