日本での部屋探しがようやく終わり、引越し準備も整った直前になって、思いがけず「契約を進められません」と連絡を受けるケースがある。こうしたトラブルの中で、意外と多いのが「書類の未提出」が原因で契約そのものが白紙に戻ってしまうという事例である。
申込書に記入し、内見も終え、初期費用の見積もりも受け取っていた段階で突然契約破棄されるというのは、借主にとっては大きな精神的・経済的ダメージとなる。しかも、理由を聞いてみると「提出予定だった書類が未着だったため」といった内容で、事前の確認や認識のズレが原因となっていることも多い。
この記事では、賃貸契約で書類の未提出がなぜ重大な問題になるのか、どうすれば防げたのか、そして同様のトラブルを避けるために借主ができる対策について、実務に基づいて解説する。
書類の未提出が契約破棄につながる理由
日本の賃貸契約では、申込書の記入と提出は「物件を借りたいという意思表示」にすぎず、それ自体で契約が成立するわけではない。正式な契約は、貸主や保証会社による審査を経て、契約書への署名・捺印が完了した時点で成立する。
この審査には、借主の身元や収入、滞在資格、保証能力などを確認する必要があり、そのために各種の書類が必要とされる。提出されないままになっていると、貸主側や保証会社としては、借主の信用力を確認する材料がそろわないため、最終的に「契約不可」と判断されることがある。
とくに保証会社を利用する契約では、申込後に一定の期限内で必要書類がすべて揃わなければ、審査を取り下げられる可能性がある。繁忙期などには他の申込者が現れた場合、提出が遅れているというだけで契約権を失うこともある。
実際に求められる主な書類
不動産会社や管理会社から提出を求められる書類は、借主の属性によって異なるが、一般的には以下のようなものがある。
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身分証明書(運転免許証、パスポートなど)
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在留カード(外国籍の場合)
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住民票(契約書の住所記載と整合させるため)
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収入証明書(給与明細、源泉徴収票、雇用契約書など)
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在職証明書または学生証(所属確認のため)
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緊急連絡先の情報
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保証会社の申込書と同意書
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初期費用の振込明細
これらの書類の提出が完了して初めて、貸主や保証会社が「問題なし」と判断し、契約の最終段階に進む。ひとつでも不足していると、審査そのものが保留または中断される可能性が高くなる。
提出期限を確認していなかったケース
トラブルの原因としてよくあるのが、「書類の提出期限を確認していなかった」というケースである。口頭で「来週までにお願いします」と言われたものの、具体的な日付を記録しておらず、提出が遅れてしまった。あるいは「不備があれば連絡があるだろう」と思っていたが、実際には催促はなく、そのまま他の申込者に決まってしまったという流れである。
不動産会社は同時に複数の申込を処理していることが多く、連絡や確認が漏れてしまうこともある。そうした中では、借主自身が提出期限を意識して管理しなければ、優先順位が下がり、契約権を失う可能性がある。
審査に通っていたのに破棄されるケースもある
保証会社や貸主からの審査に「可」とされていた場合でも、最終的な契約に至らないことがある。その理由の多くが、契約書類や本人確認書類の提出が遅れていた、または不備があったためである。
たとえば、「審査通過」の連絡を受けて安心していたが、その後提出予定だった住民票が間に合わず、鍵渡し日が直前に迫った時点で「契約に進めない」と通知される。あるいは、保証会社の同意書にサインしないまま日数が経過し、審査が失効してしまうというケースもある。
審査通過は「契約の準備が整った段階」に過ぎず、契約成立には必要書類がすべて揃っていることが条件となる。
提出ミスを防ぐための対策
書類の提出ミスや遅延を防ぐためには、借主自身による進捗管理が重要になる。以下のような対策を取ることで、書類の未提出による契約破棄を防ぐことができる。
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申込時に必要書類の一覧を紙またはメールで明確にしてもらう
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提出期限をカレンダーアプリなどに記録し、リマインド機能を設定する
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書類を提出した際には、写しを保管し、提出日と方法(郵送、メール、手渡し)を記録しておく
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提出後に受領確認の返信が来ない場合は、自分から確認連絡を入れる
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郵送ではなく可能な限りデジタルで送付することで即日対応を可能にする
また、本人以外が提出する場合(家族や友人の代理提出など)では、どの書類がいつ提出されたかを借主自身が把握しておく必要がある。
物件確保のために意識すべきこと
人気物件や繁忙期の物件では、複数の申込者が同時に審査にかけられていることがある。先着順ではなく、書類が早く揃った順、審査が先に完了した順で契約を進めるという運用も珍しくない。
「審査に通るか不安だから、書類は通ってから出す」という姿勢は、結果的に契約のチャンスを逃すリスクを高めることになる。申し込みを決めた時点で、必要書類はできるだけ早く揃え、提出できるものから順に出していくのがスムーズな契約への近道である。
とくに海外からの引越しや、退去日がすでに決まっている場合には、契約が成立しないことによる損失が大きくなるため、慎重かつ迅速な対応が求められる。