カラフルな糸が幾重にも重なり、幾何学模様のように浮かび上がる「手まり」は、日本の伝統的な遊具であり、装飾品であり、贈り物でもある。球体に糸を巻きつけて模様をつくるこの手仕事には、技術だけでなく、贈る相手への思いや、四季を映す色彩感覚が込められている。旅先でこの手まりづくりに参加する体験は、日本人が古くから大切にしてきた“手をかける美しさ”にふれる機会となる。
手まりの歴史は古く、もとは奈良時代に中国から伝わった「蹴鞠」が原型とされている。時代とともに日本独自のかたちに発展し、江戸時代には女の子の遊び道具として広まり、さらに明治以降は刺繍をほどこした飾りまりとして贈り物にも用いられるようになった。現在では実用の枠を越え、インテリアやアクセサリーなど、現代の暮らしに寄り添う工芸品としても注目されている。
体験教室では、まず芯となる球体を手に取り、好みの糸を選ぶところから始まる。赤や青、金、白、紫など、さまざまな色の糸が並ぶ中から、自分の感性で色を組み合わせる楽しさは、まさに“色と遊ぶ”ひととき。模様には基本の星形や菊、麻の葉などがあり、講師が一つずつ手順を示しながら、丁寧にサポートしてくれる。初心者用の簡易パターンも用意されているため、初めてでも安心して参加できる。
針と糸を使って少しずつ模様を描いていく作業は、見た目以上に静かな集中力を必要とする。手を止め、模様を見直し、また針を進める。その繰り返しの中で、時間がゆっくりと流れていくのを感じる。日常では味わえない“無言の時間”を過ごすことで、心も自然と整っていく。子どもでも楽しめるよう、糸の扱い方や模様の選び方に工夫されたプログラムもあり、親子での参加にも最適だ。
完成した手まりは、小さな飾りとして持ち帰ることができる。色や模様にはそれぞれ意味が込められており、たとえば赤は魔除け、菊の模様は長寿を願うとされる。旅先で選んだ色や形に、知らず知らずのうちに自分の願いや思いが反映されていることに気づくこともある。その手まりは、単なる手土産ではなく、自分の“時間と心”を映したかたちとなって残る。
体験施設は、古民家や工房、文化センターなど静かな場所にあることが多く、落ち着いた空間の中で制作に集中できる。伝統的な調度品や手まりの作品が並ぶ室内は、それ自体が美しい展示空間でもあり、日本の手仕事が受け継がれてきた背景を感じることができる。
外国からの旅行者にとっては、言葉の壁が不安要素となるが、多くの教室では英語対応がなされており、写真や実演を交えた説明で安心して体験に臨める。模様の意味や色の由来なども紹介され、日本文化の奥行きを感じながらのものづくりが楽しめるようになっている。
手まりは、糸一本から始まり、手のひらに収まる美しさへと仕上がる。その過程にふれることで、色や形だけでなく、日本人が大切にしてきた“丁寧な暮らし”の姿勢に出会うことができる。旅の合間に静かに糸を巻く時間は、きらびやかな観光とは異なる、深くてやさしい記憶として心に残るだろう。