2025/07/03
旅の最後に“思い出マップ”を描こう 記憶をたどりながら、自分だけの旅路を形に残す

旅の終わり、少し名残惜しい気持ちで過ごすチェックアウトの朝や帰り道。その時間に、自分が歩いてきた旅の軌跡を紙の上に描いてみる──そんな「思い出マップ」をつくる時間は、旅の記憶をただ残すだけでなく、感情や体験を整理し、もう一度味わい直すための、やさしいプロセスとなる。

「旅の最後に“思い出マップ”を描こう」は、観光施設や宿泊先、旅育イベントの一環として用意されている体験型プログラム。用意されるのは、白紙の地図や、イラスト入りのテンプレート、色鉛筆やスタンプ、旅先の写真やシールなど、自由に表現できるツールたち。そこに、参加者が自分の歩いた道、印象に残った風景、出会った人々、食べたもの、話したことなどを自由に描いていく。

地図は決まったものではなく、正確である必要もない。「駅から旅館まで歩いた道」「おいしかった和菓子のお店」「川で遊んだ場所」「迷子になって泣きそうになった広場」──そうした心に残った場面を、絵やことばで地図にしていく。地理的に正確でなくても、心の中の“旅の感覚”が忠実に映し出される。

親子での参加では、子どもが記憶をたどりながら夢中になって描き、大人はその横で「ここ、どんなだったっけ?」と問いかける。すると、「この店でやさしいおばあちゃんが話しかけてくれたよ」「あのとき、お父さんが道まちがえたよね」と、自然に会話が広がっていく。思い出を共有し、確認し合いながら完成させていくこの時間自体が、旅の最終章として心に刻まれていく。

子どもはイラストや線を使って感情豊かに表現し、大人はエピソードを文章にして添えることもある。中には、思い出の場所に“ありがとうマーク”や“また行きたいマーク”を描き込むアイデアもあり、旅を振り返ると同時に、感謝や未来への期待を自然と書き込める構成になっている。

施設によっては、マップをスキャンしてデジタル保存したり、しおりサイズに折って持ち帰れるように加工したりするサービスもあり、“持ち帰る旅の記憶”として活用できる。また、希望者には地元の人に向けて「こんな体験ができました」というかたちで掲示されたり、他の旅行者と交換できるコーナーを設けている場所もある。

外国人旅行者にも人気があり、英語や他言語でのマップテンプレートが用意されている施設も多い。日本の風景や文化をどう感じ、何を印象に残したかを視覚的に表現できるため、言葉の壁を越えて記録を楽しむことができる。帰国後に家族や友人と共有するツールとしても活用されている。

“思い出マップ”は、写真とは違うかたちで記憶を定着させる。画面越しの記録ではなく、自分の手で描いた線や言葉だからこそ、その旅が「自分のもの」になる。完成したマップを見返すたびに、旅先で感じた風、におい、音までもがよみがえってくるような感覚がある。

旅は、帰るまでが旅ではなく、“思い出すまでが旅”とも言える。マップを描くことで、旅の終わりにそっと区切りをつけながら、また次の旅への小さな予告編をつくることもできる。

地図に残すのは、歩いた距離ではなく、心が動いた場所。そんな“自分だけの地図”が、旅という物語に最後のページを添えてくれる。