旅先で思いがけず出会ってしまうものがある。観光でも食事でもない、日本の家電量販店で見かけた炊飯器が、それだった。たかが炊飯器と思っていたのに、試しに炊かれた白ごはんを一口食べた瞬間、価値観が変わった。香り、甘み、ふっくらとした食感。あの感動を忘れられず、気づけば真剣に購入を検討していた。結果的に持ち帰ったその炊飯器は、今や毎日の生活に欠かせない存在になっている。
日本の炊飯器が特別なのは、単にごはんを炊くだけでなく、その炊き方に驚くほどの繊細さと工夫が詰まっていることだ。銘柄米の特徴に合わせたモードがあったり、炊き上がりの食感を選べたり、浸水から蒸らしまで細かく制御されていたり。ごはんという単純なものに、ここまでの情熱を注ぐのかと驚かされる。
特に高性能モデルになると、土鍋のような厚釜構造や、圧力をかけて炊き上げる機能、さらにはスチームを利用して保温中の風味を守る機能まで備わっている。炊きたてはもちろん、数時間後でもごはんが固くならず、もっちりとした食感が続く。冷めてもなお美味しいごはんをつくれるのは、日本の炊飯器だからこそ実現できる技術である。
さらに炊飯器は、白米だけにとどまらない。玄米や雑穀米、おかゆ、炊き込みごはんはもちろん、パンを焼く機能やスチーム調理までこなす多機能モデルも多い。キッチンに一台置いておくだけで、調理の幅がぐっと広がる。その上、操作もシンプルで、言語表示を英語や中国語に切り替えられるモデルも増えており、海外ユーザーにも使いやすい仕様が整っている。
購入のハードルとなるのが電圧やプラグの違いだが、近年では海外対応モデルも多く、対応国ごとの仕様も明記されている。量販店では外国人向けの説明スタッフが常駐していることもあり、安心して相談しながら選ぶことができる。価格帯も幅広く、1万円台から10万円を超える高級モデルまで揃っており、旅の記念としても選びやすい。
驚くべきは、その人気の高さである。観光客の多くが炊飯器を買い求め、箱ごとスーツケースに詰めて帰国していく光景は、今や空港の風物詩のようになっている。中には複数台をまとめて買い、自宅用と贈答用に分けている人もいるという。それほどまでに、日本の炊飯器には人を惹きつける力がある。
現地での生活に戻っても、日本で感じたごはんの味を再現できるという安心感は大きい。どれだけ食材や調味料を工夫しても、ごはんが美味しくなければ和食は決まらない。日本の炊飯器は、そんな食の基盤をしっかりと支えてくれる。まるで日本の職人精神が小さな機械に宿っているかのような存在だ。
旅のなかで持ち帰るものは多いが、日本の炊飯器はその後の生活を変えてくれる“実用品の宝”だと断言できる。もし店頭で試食の機会があれば、ぜひ一口食べてみてほしい。きっと、思わずもう一口、そして購入を真剣に検討する自分に気づくだろう。日本で炊飯器を買わないなんて、あの味を逃すのと同じくらい、もったいない選択だと思う。