日本での新生活をスタートさせる外国籍の方にとって、最初に直面するのが「部屋探し」そして「契約者名義の問題」である。特に、日本での収入がまだ不安定だったり、在留資格が短期であったりする場合、「母国にいる家族を契約者にできないか?」と考える人も少なくない。
一見すると「家族なら信用できるし、支払い能力もあるから問題ないはず」と思えるが、日本の不動産契約においては、外国に住んでいる人を契約者にすることは非常に難しいのが現実である。
この記事では、なぜ日本では“日本にいない人”を契約者にできないのか、その背景と例外、代替手段を解説する。
結論:原則として、母国在住の家族は契約者になれない
不動産の賃貸契約において、契約者は「実際にその物件に住む人」であることが基本的な前提となる。また、日本の法律・ルールに基づいて生活し、契約義務を果たせる人物である必要がある。
そのため、日本に居住していない人が契約者になることは、原則として認められていない。
具体的には次のような理由が挙げられる:
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賃貸契約は日本国内の民法・借地借家法に基づいて管理される
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契約書への署名や本人確認に原則として対面や日本住所が求められる
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緊急連絡、家賃未払い、設備トラブルなどに迅速に対応できない
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保証会社の審査対象にならない(在留カード・収入証明がないため)
つまり、いくら家族であっても「日本に住んでいない人」には、契約上の責任を実務的に負わせることができないのが現状である。
なぜ「住んでいない人」が契約できないのか?
1. 法的責任を果たせない
契約者は、物件の使用者としてさまざまな責任を負う。家賃の支払いだけでなく、原状回復義務、緊急対応、近隣トラブルの対処など、日々の対応が求められる。
これらを外国から行うことは実務的に不可能であり、貸主にとっては非常に大きなリスクになる。
2. 本人確認・書類審査が通らない
日本の賃貸契約では、契約者の本人確認として、以下の書類が求められることが多い:
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在留カード
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パスポート
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日本の連絡先(携帯電話・現住所)
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就労証明・収入証明
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銀行口座
これらを提出できない人は、そもそも審査対象にならない。
3. 保証会社の制度が使えない
多くの賃貸契約では、連帯保証人の代わりに「家賃保証会社」の利用が義務づけられている。保証会社は、契約者が日本で経済活動をしていることを条件として審査を行うため、海外在住者は原則として対象外となる。
例外的に契約可能なケースはあるか?
以下のような特殊なケースでは、母国の家族が契約に関わることができる可能性もあるが、それは“契約者”ではなく“連帯保証人”または“家賃支払者”としての役割に限定される。
ケース1:契約者は本人、支払者は家族
実際に日本に住む本人が契約者となり、家賃の支払いを母国の家族が行うというケース。この場合、支払者の銀行口座情報を提出すれば可能だが、責任を負うのはあくまで契約者本人である。
ケース2:日本国内の代理人を立てる
海外在住の家族が日本国内に法人や代理人(弁護士・管理者)を通じて契約する形。ただしこれは事業用物件や特別なケースに限られる。
ケース3:法人契約に切り替える
まれに、家族が経営する会社が日本国内に支社を持っている場合、その会社名義で法人契約を結び、本人が入居する形を取るケースもあるが、非常にレアで手続きが複雑になる。
契約者になれない場合の代替手段
1. 本人を契約者とし、家族を保証人とする(可能であれば)
連帯保証人には日本国内に住んでいることが求められるが、まれに外国籍の家族でも保証人として認められる場合がある(物件や保証会社による)。
ただし、保証人が国外にいると緊急時対応が困難なため、受け入れられるケースは限定的。
2. 保証会社の利用で保証人不要にする
保証人を立てられない場合は、保証会社の利用が最も現実的な選択肢となる。契約者本人が在留カードと就労証明を持っていれば、家族に頼らずに契約が可能になる。
3. 家族が生活支援をしていることを補足説明する
収入がまだ不安定な場合は、「母国の家族が生活支援している」という説明に加え、仕送り明細、家族名義の送金記録などを提出することで、信頼を高めることができる。
契約者は「その部屋に住む人」が原則
日本では、契約者=居住者というのが基本原則である。母国の家族に支援してもらいたい気持ちはあっても、法的にも実務的にも、それを名義として形にすることは難しい。
最も確実なのは、日本に住む本人が契約者となり、その人が保証会社を利用して契約する方法である。名義の問題でつまずかないためにも、契約前に不動産会社や保証会社に「どのような立場で支援を受けられるか」を正直に相談することが、スムーズな入居への第一歩になる。