2025/06/27
“江戸ごはん”はサステナブル? 海外シェフが注目する和の台所

江戸時代の日本人は、いまのように冷蔵庫もコンビニもない暮らしの中で、旬の食材を活かし、無駄なく丁寧に料理をしていた。その素朴で工夫に満ちた“江戸ごはん”が、いまフランスや北欧などの海外シェフの間で「持続可能な食文化」として注目を集めている。

肉中心ではなく、野菜・豆・魚を主役とする食事。発酵や乾物を活用し、食材の端から端までを使い切る知恵。それは、フードロス削減やローカル志向が進む世界の食の潮流とも自然に重なっている。

「一汁一菜」に学ぶ、最小で最大の満足

江戸時代の基本的な食事は「一汁一菜」。白米、味噌汁、そして一品のおかず。この極めてシンプルな構成こそ、今のミニマルな食生活を志向する欧米人に響いている。

スウェーデンの料理学校では、「一汁一菜」の栄養バランスと構成美が授業の教材として使われており、「量より質」「素材そのものの味を引き出す技術」に着目する若手シェフも増えている。

また、発酵食品の活用──味噌、ぬか漬け、干物などは保存性に優れるだけでなく、腸内環境を整える“機能性食材”として世界中で再評価されている。

江戸の台所は“ゼロウェイスト”だった

大根の葉はふりかけに、煮物の出汁がらは佃煮に。魚の骨は煮出して汁にし、残った米ぬかは掃除や漬物に。江戸時代の台所では、食材を「捨てる」ことが前提にされていなかった。

こうした「余すことなく使う」知恵は、いまヨーロッパのゼロウェイスト運動に共鳴し、注目を集めている。たとえばパリでは、日本の料理本『豆腐百珍』をヒントにしたヴィーガンメニューが登場し、「江戸に学ぶ持続可能な台所」として紹介されている。

また、江戸の家庭道具──竹ざる、土鍋、木製まな板──といった素材へのこだわりも「プラスチックフリー」の観点から評価され、オーガニックショップなどで“江戸スタイルの道具”として販売されている。

地元と季節を大切にする知恵

江戸ごはんの根底には、「身土不二(しんどふじ)」という考え方がある。人の身体は、暮らしている土地のものを食べてこそ健康を保てる、という思想だ。

輸送が困難だった当時、食材は近郊の畑や海から得られ、旬を逃さず消費された。そのシンプルな「地産地消」こそ、現代のローカルフード運動と重なる。

あるドイツ人シェフはこう語る。「江戸の人々は、その土地で採れるものだけで、一年を回す工夫をしていた。食べものと自然との距離が、現代よりずっと近かったと思う」

贅沢ではなく、ていねいな満足

江戸の食事は、豪華さではなく“ていねいさ”が基準だった。米をとぎ、水を汲み、出汁を引き、季節の香りを感じながら料理をする時間は、食べる前から心を満たす“生活の美学”だった。

その価値観は、いま世界が見直しつつある「スローフード」「食育」「心の豊かさ」とも深くつながっている。豪勢でないからこそ、心が満たされる。簡素だからこそ、工夫が生まれる。そうした江戸の感性が、未来の食を照らしている。

おわりに──江戸の台所は未来のヒント

テクノロジーが進み、食材が簡単に手に入る時代だからこそ、“江戸のごはん”が私たちに問いかける。
「本当に必要なものだけを、感謝して、ていねいに使う」──その姿勢は、食文化の枠を超えて、現代の暮らし全体を見直すヒントになっている。

サステナブルな食の未来は、実は過去の台所に、静かに眠っているのかもしれない。