2025/06/28
清水寺・祇園だけじゃない|嵐山と嵯峨野トロッコの四季を感じる旅

京都観光といえば、清水寺や祇園が真っ先に思い浮かぶかもしれない。しかし、京都の本当の魅力は、喧騒を離れた先にこそ息づいている。市街地から少し足を延ばせば、山と川に囲まれた穏やかな風景の中で、四季の移ろいを体全体で感じることができる。そんな“静かな京都”を体験できるのが、嵐山と嵯峨野エリアだ。

阪急嵐山駅、あるいはJR嵯峨嵐山駅を降りると、まず広がるのは渡月橋のある風景。桂川に架かるこの橋は、平安時代から詠まれた景勝地であり、春は桜、夏は青もみじ、秋は紅葉、冬は雪景色と、いつ訪れてもその美しさに息をのむ。川沿いのベンチに腰かけて、しばらく風を感じるだけでも旅の価値があると実感できる。

嵐山の魅力のひとつが、徒歩でのんびりと散策できること。竹林の小径は特に人気で、まっすぐに伸びた青竹が空を覆い、風が葉を揺らす音が耳に心地よく響く。早朝に訪れると、ほとんど人のいない静寂の中、竹と光がつくる幻想的な空間が広がる。

その竹林を抜けた先にあるのが、「嵯峨野トロッコ列車」。トロッコ嵯峨駅から保津峡を抜けてトロッコ亀岡駅までをつなぐ全長7.3kmの観光列車で、時速25kmというゆっくりとしたスピードが、車窓の風景をより豊かに感じさせてくれる。春は桜のトンネル、夏は深緑の渓谷、秋は燃えるような紅葉、そして冬には川霧と雪景色が広がる。窓のない「ザ・リッチ号」に乗れば、風や香りまで五感で味わうことができる。

トロッコの終点・亀岡からは、保津川下りで嵐山へ戻るのも風流なルート。船頭の巧みな竿さばきで、渓流を滑るように進む舟の上では、都会では決して出会えない“音のない時間”が流れる。途中には岩を縫うような急流もあり、穏やかな景色の中にも小さな冒険の要素がある。

食もこの旅の楽しみのひとつ。嵐山界隈には、湯豆腐や湯葉といった京料理を出す老舗が点在し、景色を眺めながらの昼食や抹茶と和菓子のひと休みが心を整えてくれる。嵐山公園の展望台からは、季節ごとの山並みと川が織りなす立体的な風景が一望でき、旅の記憶を深く焼きつけてくれるだろう。

京都の名所は数あれど、嵐山と嵯峨野は、観光というより“滞在”の魅力を教えてくれる場所だ。あえてスケジュールを詰めず、ゆっくりと自然と対話しながら過ごすことで、時間がほぐれ、心に余白が生まれる。定番を一度離れて、自分だけの京都を見つける──その第一歩にふさわしいエリアが、嵐山なのかもしれない。