福島県の西部に位置する会津若松は、かつての城下町の面影を色濃く残す、歴史と伝統が息づく町である。武士の誇りと教育を重んじた風土は、今も街並みや人々の暮らしのなかに感じられる。特に鶴ヶ城と白虎隊のエピソードは、この土地の精神性と美意識を象徴する存在となっている。
会津若松へは、東京から新幹線で郡山までおよそ1時間半、そこから在来線で1時間ほど。遠すぎず、しかし旅の実感を味わえる距離感が心地よい。市内は観光地が比較的コンパクトにまとまっており、徒歩や周遊バスを活用すれば、無理なく巡ることができる。
旅の出発点としてふさわしいのが、町の象徴ともいえる鶴ヶ城だ。白壁と赤瓦のコントラストが美しい天守閣は、戊辰戦争を耐え抜いた歴史を持ち、現在の姿は当時の姿を忠実に復元したもの。城内の展示では、会津藩の政治や暮らし、そして武士たちの精神が丁寧に紹介されている。天守から見下ろす会津の町並みは、当時の武士たちが見ていたであろう風景を重ねて想像することができる。
城から少し足を伸ばすと、飯盛山にたどり着く。ここは、白虎隊の少年兵たちが最後の時を過ごした地として知られる。白虎隊は、会津藩を守るために戦った16〜17歳の若者たちで、厳しい軍学と忠誠心を育まれて育った。飯盛山から鶴ヶ城を望んだ彼らが、城が落ちたと誤認し自ら命を絶ったという逸話は、多くの旅人の胸を打つ。山頂には白虎隊の墓や資料館があり、今も静かに彼らの魂が祀られている。
町を歩けば、漆器や会津木綿といった伝統工芸に触れることもできる。かつて武士の副業としても支えられていた産業は、今なお職人たちによって丁寧に受け継がれている。工房を併設したショップや体験施設では、手仕事のぬくもりを感じながら、旅の記憶として持ち帰れる一品に出会えるかもしれない。
昼食には、地元の食材を使った郷土料理がおすすめだ。会津の味噌や地鶏、そばなど、素朴ながらも滋味深い料理が揃う。旅の合間に立ち寄る古民家風の食事処では、建物の趣きと相まって、より一層土地の記憶が染み込んでくるような時間が流れる。
歴史は単なる過去の記録ではない。会津若松を歩くことで、その土地の人々がいかに日々を守り、受け継いできたかを体感できる。武士の町としての矜持と、美しい四季の風景が調和するこの場所は、ただの観光地ではなく、生きた物語を宿す“記憶の町”だ。