山口県の萩と島根県の津和野は、ともに江戸時代の面影を色濃く残す歴史的な町並みと、明治維新の原動力となった若者たちを育んだ“志のふるさと”として知られている。白壁と武家屋敷が並ぶ静かな街道を歩き、歴史と向き合う時間は、観光以上の学びと気づきを与えてくれる。
【萩:城下町に息づく維新の記憶】
旅の出発地は、山口県北部の萩。かつて毛利藩の本拠地として栄え、今も城下町の町割りや武家屋敷が当時のまま残されている。世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産にも登録されたこの街は、幕末の風が今も感じられるような空気に包まれている。
まず訪れたいのが、「萩城跡」とそれに続く「指月公園」。天守は現存していないが、石垣や堀が往時の規模をしのばせる。海と山に囲まれた自然の地形を活かした城づくりは、藩政時代の知恵と美意識の結晶だ。
そこから歩いてすぐの「堀内地区」には、高杉晋作、木戸孝允、伊藤博文らのゆかりの地が点在している。「旧久保田家住宅」や「高杉晋作誕生地」など、質素ながらも静かに佇む建物には、激動の時代に未来を切り開こうとした青年たちの息吹が残る。地元の案内人の語りを通して聞くエピソードは、教科書では得られない“人間としての維新志士”の姿を浮かび上がらせる。
【津和野:小京都と呼ばれる町の原風景】
萩から津和野へは車やバスでおよそ1時間半。島根県の山間に広がる津和野は、“山陰の小京都”とも呼ばれ、整った町並みと水路に泳ぐ鯉、そして赤瓦の屋根が印象的な静かな城下町だ。初めて訪れても、どこか懐かしい気持ちになるのは、この町の空気が人の暮らしと風土に深く根ざしているからかもしれない。
メインストリートの「殿町通り」には、旧藩校「養老館」や武家屋敷、森鷗外の旧宅などが並び、文学と教育の地としての側面も色濃い。とくに「森鷗外記念館」は、文豪としての彼だけでなく、医師・軍人として生きた彼の多面的な人生を知る貴重な場所だ。
また、「津和野カトリック教会」は、ゴシック様式の建築と畳敷きの内部が共存するユニークな教会で、和洋の文化が溶け合う津和野らしい象徴でもある。
【静けさの中にある“志”と出会う旅】
萩と津和野を歩く旅は、観光地を巡るというよりも、“志”と“思想”に触れる時間。華やかさや派手さはないが、その静けさの中にこそ、激動の時代を生き抜いた人々の足跡が残されている。
石畳を踏みしめながら、自分の価値観や今の時代に照らし合わせて過去を見つめる。そんな深い余韻の残る旅として、萩と津和野は、じっくりと訪れる価値のある地である。