2025/06/16
輸出和牛は“冷蔵・冷凍・チルド”どれが主流か? 輸送技術が支える品質管理

世界で“WAGYU”の需要が拡大するなかで、日本の和牛がどのような状態で海外へ届けられているか──つまり「冷蔵」「冷凍」「チルド」のどの形態が主流かという点は、品質や価格、そして輸出先のニーズを左右する重要な要素となっている。和牛は極めてデリケートな商品であるため、輸送段階の温度管理や鮮度保持技術は、そのままブランド価値の維持に直結する。では、実際に輸出の現場ではどの方法が採用されているのか。そして、それを可能にしている輸送・保冷技術とはどのようなものなのか──この舞台裏を詳しく見ていく。

結論から言えば、日本の和牛輸出では「冷凍」が最も一般的な形態である。その背景には、輸送距離・時間の長さ、輸出先の設備対応、保管期間の柔軟性など、実務的な理由がある。とくにアメリカ、EU、中東諸国などへの輸出では、通関や検疫に日数を要するため、安定性と安全性の観点から冷凍が選ばれやすい。冷凍にすることで、長期保存が可能になり、出荷から納品、店舗での販売までのリードタイムに余裕ができるのが最大の利点である。

ただし、冷凍和牛には一つ大きな課題がある。それは**“ドリップ”と呼ばれる肉汁の流出**だ。和牛は脂肪の含有率が高く、繊維もきめ細かいため、冷凍・解凍の過程で水分とともに旨味成分が失われやすい。その結果、食感の柔らかさや風味が落ち、和牛本来の「とろける味わい」を十分に伝えきれないケースが出てくる。これが、高級レストランや富裕層をターゲットとするマーケットでは冷凍品が敬遠される理由にもつながっている。

こうした課題に応える形で、近年増えてきているのが**「チルド(冷蔵)」による輸出**である。チルドとは、マイナス1℃からプラス1℃程度の低温で鮮度を保ちながら輸送する方法で、冷凍とは異なり細胞を凍結しないため、ドリップの発生が抑えられ、肉の食感や風味をほぼ損なわずに輸送できる。特に香港、シンガポール、タイといった東アジア・東南アジアの近隣国では、輸送時間が短く、空輸によって3日〜5日以内で届けられるため、このチルド輸送が実用レベルで可能となっている。

実際、香港では日本産和牛の輸入における半数以上がチルドで行われているとされ、現地のレストランや小売業者は「冷凍では味が落ちる」という認識を持つことが多い。また、チルド品は現地での「本物志向」の象徴ともなっており、「日本から空輸された当日物」としての鮮度を訴求するマーケティングが効果を発揮している。

一方で、「冷蔵(通常の4℃前後)」と「チルド(0℃前後)」は一見似ているようで異なり、前者は保存期間が短く、輸送中の温度変化に弱い。そのため、実際の輸出現場では冷蔵という表現が使われていても、実質的にはチルド帯での輸送が行われているケースが多い。輸送中の温度変動を±0.5℃以内に収める「高精度冷蔵技術」や「定温コンテナ」、さらには「エアカーゴ専用のチルドパッケージ」などが登場し、品質保持のレベルは格段に向上してきている。

また、今後の成長市場とされる中東や欧米への「高品質チルド輸出」を実現するには、“スーパーチルド”と呼ばれる技術にも注目が集まっている。これは輸送温度をマイナス1.5℃〜0℃の間に精密に保ち、冷凍せずに品質劣化を最小限に抑える方法であり、空輸だけでなく海上輸送でも活用できる可能性が模索されている。これにより、冷凍に比べて高品質な和牛を、より低コストかつ大量に輸送できる仕組みの確立が期待されている。

とはいえ、冷凍・チルドいずれにもメリットとデメリットが存在する。冷凍は在庫管理や大規模供給に適しており、価格帯を抑えたミドルレンジ層や小売向けには依然として有力な選択肢である。一方でチルドは、食材の“最上級の状態”を求めるレストランや富裕層に対して強い訴求力を持つ。そのため、輸出業者にとっては、輸出先の国や顧客層、用途ごとの棲み分けを前提とした最適な温度管理戦略が問われる時代に入っている。

和牛の品質を守るのは、生産者だけではない。その価値を海外の食卓に届けるまでに、多くの技術と判断が積み重なっている。どの温度帯であっても、その先に“本物の味”が届くように、物流そのものが和牛ブランドの一部として機能しているのである。