石川県・金沢は、伝統と革新が共存する美しい城下町。江戸時代の面影を残す町並みと、現代アートを世界に発信する美術館が同居するその街は、歩くだけで時間軸が交差するような不思議な魅力に包まれている。東京から北陸新幹線で約2時間半。2泊3日の滞在で、金沢の静かな感性と力強い美意識をじっくり味わう旅がはじまる。
1日目は金沢駅に到着後、「鼓門」と呼ばれる印象的な駅前モニュメントをくぐり抜け、市街地へと進む。まず訪れたいのが「金沢21世紀美術館」。円形のガラス張りの建物は、街に開かれた美術館というコンセプトのもとに設計され、建築そのものが芸術作品のような存在感を放つ。代表作であるレアンドロ・エルリッヒの《スイミング・プール》は、視点を変えることで見え方が変わる参加型の現代アートとして国内外の観光客に親しまれている。
美術館の展示だけでなく、芝生に寝転んで休憩したり、カフェでゆっくりと過ごすなど、思い思いのペースでアートと向き合えるのがこの場所の魅力。周辺には、金沢21世紀美術館とともに文化エリアを形成する「金沢能楽美術館」や「石川県立歴史博物館」もあり、時間が許せば併せて訪れるのもおすすめだ。
2日目は、江戸の風情を残す「ひがし茶屋街」へ。石畳の道に紅殻格子の町家が並び、金箔や九谷焼、加賀友禅といった地場の伝統工芸に出会える。中でも、築百年以上の町家を活用したカフェや甘味処では、静かな空間の中で抹茶や上生菓子を楽しめ、どこか時を忘れさせてくれる。時間帯によっては人力車に乗ってゆっくりと街並みを巡る体験も人気だ。
さらに足を延ばせば、浅野川沿いの「主計町茶屋街」や、「にし茶屋街」など、ひがしとは異なる趣のエリアにも出会える。それぞれの茶屋街が持つ静けさと凛とした空気感は、観光地でありながらも生活と文化のにおいが色濃く残る金沢らしさを伝えている。
3日目は、「近江町市場」での食べ歩きで旅を締めくくるのが定番。鮮度抜群の海鮮丼やのどぐろの炙り寿司など、北陸の味覚を朝から堪能できる。市場の活気と人々の声に包まれながら、滞在の余韻を感じるひとときとなるだろう。
金沢は、目まぐるしく動き回る旅ではなく、街と対話するように歩くことでその奥深さに気づける場所。アートと伝統が等しく呼吸するこの街で、心の輪郭が静かに整っていく。新幹線で気軽に訪れられる距離にありながら、訪れるたびに“日本の美意識”を思い出させてくれる──それが、金沢という街の魅力である。