「目立たない場所にあるのに、なぜあそこだけ行列ができているのか?」──そんな疑問を抱かせるラーメン店が、都市の裏通りや住宅街に増えている。あえて人通りの少ない場所に店を構え、“立地の不利”を“行列という演出”に変える──それは巧妙なマーケティング戦略の一環である。
1. 立地は不利か?──答えは「ノー」
従来、飲食店の成功には「駅近」「人通り」「視認性」が欠かせないとされてきた。しかし、情報の主戦場がGoogleマップやSNSに移った現在、立地の“物理的優位”は絶対条件ではなくなりつつある。
裏通りの小さな店が注目されるのは、「知る人ぞ知る感」「発見の喜び」「隠れ家的ステータス」といった要素が現代の消費者心理にフィットしているからだ。
2. 行列が作る“信頼”と“希少性”
人は行列に価値を見出す。見知らぬ通りで行列ができているだけで「きっと美味しい」「話題の店だ」と感じる心理がある。
この効果を活かすために、裏通りの店舗はあえて回転数を抑え、席数を絞り、提供に時間をかける。これにより自然な行列が生まれ、それがまた次の客を呼ぶ“信頼の連鎖”が形成される。
さらに、並ぶことそのものが体験としてコンテンツ化され、「◯分待った価値がある一杯」として、SNS投稿や口コミで拡散されやすくなる。
3. マップとSNSが“発見”を設計する
裏通りの店でも、スマホで検索・発見・予約ができる今、飲食店の“入りやすさ”はリアルの立地ではなく、デジタルでの導線設計に移行している。
口コミサイト、Googleレビュー、食べログ、Instagram──それらが「入口」であり、地図が「ナビゲーター」、そして行列が「最後の説得材料」として機能する。
これは、店舗前を通った“偶然の客”ではなく、“目的客”を迎える仕組みであり、より熱量の高い顧客が集まりやすい環境でもある。
4. 「並んでまで食べたい」の心理効果
人は希少性に弱く、待つほど「自分が特別な体験をしている」と思いやすい。裏通りの店舗が人気を集める理由の一つは、「こんな場所で見つけた」「あえて来た」という物語性が加わることで、ラーメンの体験が“記憶”として残る点にある。
つまり、立地の不便さが逆に顧客の満足度を引き上げるという、興味深い逆説が成立している。
まとめ:人は“発見と希少性”に惹かれる
ラーメン店にとって、立地はもはや“制約”ではなく、“戦略”の一部である。裏通りに構えるという選択は、行列・口コミ・デジタルとの連携により、逆にブランド力と話題性を高めるチャンスになる。
人々が日常の中で「発見したい」「共感したい」と思う今、裏通りの人気店が見せる姿は、現代マーケティングの縮図でもあるのだ。