日本の集合住宅に住む際、もっとも多い近隣トラブルのひとつが「騒音問題」である。足音や話し声、テレビの音、洗濯機の稼働音など、本人にとっては日常の音であっても、周囲の住人にとっては「騒音」と受け取られてしまうことがある。
実際に、騒音を理由に苦情が寄せられ、最終的には「退去してほしい」と通告を受ける例もある。特に外国籍の入居者の場合、文化や生活リズムの違いからトラブルになりやすく、「音を立てているつもりはなかったのに」と困惑することも少なくない。
こうしたトラブルは、契約前の段階である程度のリスクを見極め、対策を講じることで回避することができる。この記事では、騒音トラブルを未然に防ぐために、入居前にチェックしておくべきポイントを実務に基づいて解説する。
なぜ騒音がトラブルに発展しやすいのか
日本の住宅事情は、諸外国に比べて壁や床の遮音性能が必ずしも高いとはいえない。特に築年数の古い木造や軽量鉄骨造のアパートでは、日常生活音が構造を通じて周囲に響きやすい傾向がある。
また、日本では「生活音に対して静かな環境が求められる」という社会的な価値観が強く、音に対する許容範囲が狭い人も少なくない。隣人が就寝する夜間に物音がすれば、それがたとえ小さな音でも問題視される可能性がある。
本人が騒音を出している意識がなくても、「子どもの足音」「椅子を引く音」「掃除機をかける音」などが積み重なり、クレームへと発展することがある。
契約前にできるチェックポイント
トラブルを未然に防ぐためには、入居前の段階で「どれだけ音が響く物件なのか」を見極めておくことが重要である。以下のような視点でチェックしておくことで、騒音リスクの高い物件を避けやすくなる。
建物の構造を確認する
まず最初に確認すべきは建物の構造である。鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)は、遮音性が比較的高く、生活音が伝わりにくい。これに対し、木造や軽量鉄骨造は壁や床が薄く、音が響きやすい傾向がある。
物件情報には「構造」の欄が記載されていることが多く、また内見時に壁や床を軽くノックすることで、響きやすさを体感できる場合もある。上下階からの音が気になる人は、最上階の部屋や角部屋を検討するのもひとつの手である。
壁の厚みと隣接部屋の状況
隣室との壁に電気コンセントやエアコンの配管がある場合、そこから音が伝わりやすくなる。内見時には隣の部屋の位置や、壁の構造にも注意を向けるとよい。
また、室内に家具を置く位置も重要となる。ベッドやソファを隣室に接する壁側に設置すると、音が直接伝わりやすくなるため、対策として壁から少し離す、吸音素材を使うといった工夫も視野に入れるべきである。
内見時の時間帯と静けさ
内見はできるだけ平日と休日の両方で、できれば午前・午後・夜間に分けて行うのが理想的である。特に夜間は物件周辺の静けさが変化しやすく、近隣の生活音が目立つこともある。
同じ物件でも、上階や隣室の入居者によって音の感じ方はまったく異なるため、できるだけ実際の住環境を体感する時間を確保することが望ましい。不動産会社に「今、隣の部屋にはどんな方が住んでいるか」といった質問をすることもできる。
入居者層と生活リズムの確認
物件の入居者層によって、音に対する感覚やトラブルの発生率が変わることがある。たとえば、社会人や学生が中心の物件では昼間の静けさは保たれやすいが、夜間に活動する人が多いと騒音が気になることがある。
一方で、子どもの多いファミリータイプの物件では日中の騒がしさはあるが、全体的に生活音への理解があるため、互いに寛容である場合もある。単身者向けのアパートでは逆に、音に敏感な住民が多く、クレームが出やすいこともある。
管理会社やオーナーの対応方針
万が一トラブルが起きたときに、どのように対応してくれるかも大切な要素である。管理会社によっては「騒音クレームがあった時点で強く是正指導を行う」「トラブルのある入居者には即時退去を求める」など、厳しい方針を取っているところもある。
一方で、苦情があっても借主の立場を考慮して調整してくれる会社もある。契約前に「過去に騒音トラブルはありましたか」「対応はどうなっていましたか」など、実例を聞いてみることで、信頼できる管理体制かどうかを判断できることもある。
入居後にできる配慮と対策
騒音トラブルを避けるためには、入居後も生活の中でいくつかの配慮を意識することが大切である。
たとえば、床にラグやマットを敷くことで足音を軽減できる。洗濯機や掃除機の使用時間を朝9時から夜8時の間に限定することで、音に敏感な住人との摩擦を減らすことができる。家具の配置やテレビの音量も見直し、壁に直接設置しない工夫が役立つ。
また、クレームが入った場合はすぐに謝罪と再発防止の意思を示し、できるだけ管理会社を通じて対応することが望ましい。感情的なやり取りになるのを避けるためにも、第三者を介した冷静な対話が重要である。
トラブルを避けるには「確認と想像」が鍵
物件選びにおいては、間取りや家賃、設備だけでなく、「音環境」も重要な要素である。特に長期で暮らす予定の部屋であれば、騒音による精神的なストレスは想像以上に大きな負担となる。
「この壁の向こうには誰がいるのか」「夜になったらどんな音が聞こえるのか」「自分の生活リズムは周囲と合っているか」といった視点で想像しながら物件を見ることが、トラブルの少ない住まい選びにつながる。