2025/06/19
退去時にかかる費用を想定しておくべき理由

日本で賃貸住宅を借りるとき、多くの人が初期費用や毎月の家賃に意識を集中する。しかし実際に住み始めると、意外と見落とされやすいのが「退去時の費用」である。契約が終了して部屋を出る段階で、原状回復費用や清掃費用などが請求され、予想以上の出費に驚くケースは少なくない。

とくに外国籍の借主や日本で初めての一人暮らしを経験する人にとっては、契約の最終段階で発生する費用の存在を知らずにトラブルになることもある。退去時の出費は、契約内容や住み方、物件の設備状態によって大きく変動するため、あらかじめ想定しておくことが重要である。

この記事では、退去時にかかる代表的な費用の種類とその根拠、どのような住み方をすれば費用を抑えられるか、そしてトラブルを回避するために事前に確認しておくべきポイントについて解説する。

原状回復費用とはなにか

賃貸契約における「原状回復」とは、入居前の状態に戻して物件を貸主に返すことを意味する。ただし、通常の生活で発生する汚れや傷みは「通常損耗」として借主の負担とはならないとされている。

一方で、借主の過失や不注意、著しく汚した・壊した箇所については、借主の責任で修繕費用を負担する必要がある。これが「原状回復費用」として請求される内容である。

具体的には、壁紙の貼り替え、床の補修、鍵の交換、エアコンの分解洗浄、タバコのにおいやヤニの除去、カビの除去などが該当する。これらは入居中の使い方によって金額が大きく変わることがある。

ハウスクリーニング費用も請求されるのが一般的

現在の日本の賃貸市場では、退去時に「ハウスクリーニング費用」が借主負担となることが一般的である。これは専門業者による室内全体の清掃を指し、水回り、窓、換気扇、床、棚の中などを一通りきれいにしてから次の入居者に引き渡すための作業である。

契約書に「退去時にハウスクリーニング費用を負担すること」と記載されていれば、使用状況にかかわらず一律で請求される。金額の相場は、部屋の広さによって異なるが、単身用で1万5000円から2万5000円程度、ファミリータイプでは3万円から5万円程度が多い。

住まい方がきれいでも、契約に定めがある場合は負担しなければならないため、入居時点で確認しておくことが重要である。

鍵の交換費用が発生することもある

退去時に鍵の交換費用を請求されるケースもある。これは防犯上の理由から、次の入居者が安心して生活できるようにするための措置であり、借主が費用を負担することが通例となっている。

契約書に「鍵の交換は借主負担」と記載されていれば、その金額は退去時に請求される。金額は鍵の種類によって異なり、一般的なもので8000円から1万5000円程度、ディンプルキーや電子ロックであればさらに高くなることがある。

入居時にすでに支払っている場合は、退去時に追加請求されることはないが、支払った時点での明細書を保管しておくと安心である。

敷金の精算に関係する費用

入居時に支払った敷金は、退去時の費用精算に使用される。原状回復費用やハウスクリーニング費用など、借主に請求される金額が敷金から差し引かれ、残りが返金されるという流れになる。

ただし、契約書に特約がある場合や、損傷や汚れがひどい場合には、敷金では足りずに追加請求が発生することもある。また、逆に使用した形跡が少ない部屋であれば、費用が差し引かれたうえで残額が返金される。

どのような項目が敷金から差し引かれるのかは、契約書と「原状回復をめぐるガイドライン」をもとに判断されるため、入居時に写真を撮って状態を記録しておくことが、返金交渉の際にも有効である。

想定外の追加費用が発生することもある

退去時に想定外の出費が発生することもある。たとえば、以下のようなケースがある。

  • 備え付けの設備が故障していたが報告していなかった

  • ペットを飼っていた痕跡が残っていた(許可のない場合)

  • 壁に大きな穴や傷があった

  • 換気が悪くカビが広範囲に発生していた

  • においの除去作業が必要と判断された

こうした場合は、契約書で定められた通常の清掃費とは別に、修繕費や特別清掃費を請求されることがある。

費用をできるだけ抑えるためには、日常的に設備の不具合や汚れを管理会社に報告する、清掃や換気を心がける、退去前に簡易的な掃除を行っておくなど、入居中からの意識づけが大切である。

契約前に費用の条件を確認しておくことの重要性

退去時の費用に関しては、契約前の段階で「契約書にどこまで明記されているか」がすべての判断基準となる。たとえば、ハウスクリーニング費用や原状回復の範囲が具体的に記載されているかどうか、負担の上限が決まっているかどうかを確認することができる。

不動産会社や管理会社に対して、「退去時の費用はどれくらいを想定しておけばよいか」「契約書のこの部分は何を意味するか」といった質問をしておくと、後のトラブル回避につながる。

退去のタイミングで初めて内容を読み直すのではなく、契約時にしっかりと確認しておくことが、最終的に安心して部屋を引き渡すための準備となる。