日本で賃貸住宅を契約する際、契約書を隅々まで読むことは大切だと分かっていても、専門用語や難解な表現に戸惑うことがある。とくに注意が必要なのが、「ペナルティ」に関する条項である。
ペナルティとは、契約内容に違反した場合や、特定の行為を行った際に借主が負担する金銭的な責任や制限のことを指す。これは「違約金」「解約料」「損害金」「特約違反時の費用負担」などの形で契約書に記載されていることがあり、条件を誤解していると、退去時や契約中に想定外の支出が発生する可能性がある。
この記事では、賃貸契約書におけるペナルティ条項の代表例とその意味、どのような点を事前に確認しておくべきか、実務的な読み解き方について解説する。
「違約金」という表現の意味
契約書に「違約金を支払うものとする」と記載されている場合、これは借主または貸主の一方が契約内容に反した行為をしたときに、その違反行為に対する金銭的な補償として支払う金額を意味する。
たとえば、以下のような場合に違約金が発生することがある。
-
契約期間中に無断で退去した
-
契約に反してペットを飼育した
-
許可なく事務所利用をした
-
契約書に記載された退去通知期限を守らなかった
違約金の金額は契約書に具体的な数値で書かれていることが多く、たとえば「契約開始日から1年未満で退去した場合、家賃1か月分を違約金として支払う」といった内容になる。
このような条項は貸主が一方的に定めることはできず、借主が契約時に内容を理解し、署名していることが前提である。ただし、あまりにも過度な内容(たとえば「退去時に家賃の6か月分を違約金として支払う」など)は、消費者契約法の観点から無効となる可能性がある。
「中途解約」に関する条項の読み方
賃貸契約では一般的に、「解約予告期間」というものが定められている。多くの場合、1か月前までに書面で通知することが義務付けられており、それに従えば違約金は発生しない。
しかし、特約として「契約から1年未満で解約する場合は、違約金として賃料の1か月分を支払うこと」と記載されているケースもある。これは「短期解約違約金」と呼ばれるもので、貸主側が頻繁な入退去によるコストを回収するために設定される。
こうした条項がある場合、たとえ正規の解約予告を守っていても、1年以内の退去であれば別途費用を支払わなければならない。契約書の中で「1年未満の退去時に◯円」といった表現を見つけた場合は、その金額が何に基づくものなのか、解約通知の期限とどう関係するのかを読み解く必要がある。
ペットや楽器など特定行為に関するペナルティ
契約書には「禁止行為」や「条件付き許可」に関する記載があることがある。たとえば、「ペット不可」「楽器演奏禁止」「事務所利用不可」といった内容である。
これに違反した場合、契約違反とされ、以下のようなペナルティが課されることがある。
-
強制退去
-
修繕費や清掃費の実費負担
-
違約金の請求(賃料の数か月分など)
たとえば、ペット不可物件で無断で動物を飼っていたことが発覚した場合、「においや傷が確認されたため、消臭・修繕費を全額負担してもらう」という扱いになることもある。
「ペット相談可」と記載されている物件であっても、「ペット飼育時は退去時に敷金1か月分追加」や「清掃・脱臭費として◯円請求する」といった条件付きの特約が設けられていることが多く、内容を読み違えないよう注意が必要である。
原状回復に関するペナルティの見極め
退去時のトラブルで多いのが、「どこまでが借主の負担なのか」という原状回復費用の範囲に関するものである。契約書には次のような表現が見られることがある。
-
「通常使用による損耗を除き、破損・汚損については借主が修繕費を負担する」
-
「故意・過失による傷や汚れは、原状回復費用として実費を請求する」
-
「タバコのにおいが強く残っている場合、脱臭費用を借主が負担する」
一見すると合理的に見えるが、「どこまでが通常使用か」「過失かどうかの判断基準は何か」があいまいなため、入居時点での状態を記録しておかないと、退去時に不当に高額な費用を請求されるおそれがある。
こうした条項に関しては、「ガイドラインに基づき判断する」「契約時に説明を受けた内容と一致しているか」をもとに、内容の妥当性を見極める必要がある。
契約前に確認・質問すべきこと
契約書にペナルティが含まれているかどうかを確認するには、以下のような項目に注目するのが有効である。
-
「違約金」や「損害金」という言葉が使われていないか
-
解約に関する特約が明記されているか
-
「敷金は償却」「クリーニング費は固定」「鍵交換費は借主負担」といった条項があるか
-
ペットや楽器、事務所利用に関する制限が記載されているか
-
退去時に必要となる支出の上限や条件が記載されているか
不明な表現や金額については、不動産会社や管理会社に「これは何の費用か」「どんな場合に発生するのか」と尋ねることで、納得のうえで契約を進めることができる。