日本で賃貸住宅を借りる際、多くの物件に「敷金」や「礼金」といった初期費用が設定されている。中でも「礼金」とは、貸主に対して支払う返金されないお金であり、実質的には謝礼としての意味を持っている。
こうしたなか、「礼金ゼロ」と表示された物件は初期費用を抑えたい人にとって非常に魅力的に見える。とくに短期間だけ住む予定の人や、引っ越し費用を抑えたいと考える外国籍の入居希望者にとっては、費用負担が少ないという点で好まれやすい。
しかし、礼金がゼロであることがそのまま「本当にお得」であるとは限らない。契約条件や家賃設定、その他の費用に目を向けると、見えにくい部分でコストがかかっていることもある。この記事では、礼金ゼロ物件を選ぶ際の注意点と、その背景にある仕組みについて事実に基づいて解説する。
礼金とは何か、その性質を理解する
礼金とは、契約時に借主が貸主に支払う一時金であり、退去時に返金されない性質を持つ。もともとは「物件を貸してくれてありがとう」という感謝の意味で支払われていた金銭で、法的に支払い義務があるわけではない。
現在では、礼金の相場は家賃の1か月分が一般的だが、都市部では2か月分、地方では0.5か月分など地域差がある。また、築年数や設備、需要によっても変動するため、「礼金なし」の物件は一見して割安に見える。
なぜ礼金ゼロの物件が存在するのか
礼金が設定されていない物件は、貸主側が「初期費用を下げて入居者を確保したい」という戦略の一環で用意されていることが多い。たとえば、次のようなケースである。
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長期間空室になっている
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周辺に競合物件が多く、価格で差別化したい
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築年数が古く、他の魅力が少ない
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入居希望者が少ない時期(オフシーズン)に募集している
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一定期間のキャンペーンとして初期費用を抑えている
これらは貸主にとっては収益を維持するための工夫だが、借主側にとってもコストを抑えやすいという利点がある。
ただし、「なぜ礼金がゼロなのか」という理由を正しく理解し、条件の背景を把握しておくことが重要である。
家賃が相場より高く設定されている場合がある
礼金がゼロでも、家賃が相場よりも高めに設定されている物件がある。これは、貸主が初期費用ではなく月々の収入から回収しようとしている可能性がある。
たとえば、同じエリア・間取りの物件と比較したとき、家賃が5000円高い場合、1年間で6万円、2年間で12万円の差が生まれる。仮に礼金1か月分を払っても、トータルでは他の物件の方が安くなることがある。
初期費用だけで物件を選ぶのではなく、「2年間住んだ場合の総支出」を比較する視点を持つことで、実際にどちらがお得かを判断しやすくなる。
退去時費用や別途費用が割高なこともある
礼金がゼロの代わりに、退去時のクリーニング費用や原状回復費用が高めに設定されている物件もある。たとえば、「退去時に清掃費用として一律◯万円を負担」といった条項が契約書に書かれているケースである。
また、鍵交換費用、消臭費用、エアコン清掃費、消火器設置費などの名目で、入居時に本来より高額な初期費用を請求されることもある。
一見「礼金ゼロ=安い」と思って契約すると、実際には初期費用が他の物件と大きく変わらないか、かえって割高になってしまうこともあるため、費用の内訳を確認することが大切である。
短期解約違約金が設定されていることがある
礼金ゼロの物件では、契約書に「短期解約違約金」という特約が設けられていることがある。たとえば、「1年未満で退去した場合は、賃料1か月分を違約金として支払う」といった条項である。
これは、貸主が礼金を取らない代わりに、すぐに退去されることで生じる空室リスクを軽減するために設けるものである。つまり、長く住んでもらうことを前提に条件を緩和しているが、早期に退去した場合にはペナルティが発生する仕組みである。
このような条項があるかどうかは、契約書の特約欄をしっかりと読み込まないと気づきにくいため、契約前の確認が欠かせない。
「ゼロゼロ物件」は審査が厳しいこともある
「敷金ゼロ・礼金ゼロ」といったいわゆる「ゼロゼロ物件」は、借主にとっては初期費用が圧倒的に安くなるというメリットがある一方で、保証会社の審査が厳しめに設定されている場合がある。
これは、万が一滞納が発生した場合に、貸主が回収手段を持たないことが多いためである。そのため、収入が不安定、保証人がいない、在留期間が短いといった条件の入居希望者に対しては、審査で否認される可能性もある。
また、ゼロゼロ物件では保証会社の保証料や火災保険料が割高に設定されているケースもあり、長期的に見るとトータルコストが高くなることもある。
総額とリスクを見て判断することが重要
礼金がないという条件だけで物件を選ぶと、入居後に思わぬ負担が発生することがある。大切なのは、入居時から退去時までの費用全体と、生活のしやすさ、契約条件の柔軟性などを総合的に見て判断することである。