2025/06/19
借主が退去を拒否された実例から学ぶトラブル回避法

日本の賃貸住宅において、借主が「退去の意思を伝えたにもかかわらず、貸主や管理会社にスムーズに退去させてもらえなかった」というケースは、実は珍しくない。退去は借主の当然の権利と思われがちだが、契約条件や通知の方法、タイミングによっては、退去手続きが進まなかったり、予想以上の負担が発生することもある。

特に、初めて賃貸契約を経験する人や、更新前後のタイミングで動く人にとって、退去手続きは見落としやすい“落とし穴”がいくつもある。本記事では、実際に起こった退去トラブルの事例を踏まえつつ、事前に防ぐための確認ポイントをわかりやすく解説する。


実例1:1か月前に口頭で退去連絡したが認められなかった

ある借主は、退去の1か月前に管理会社の担当者に電話で退去の意思を伝えた。「わかりました」と返事をもらい、引っ越しの準備を進めたが、退去日を過ぎても家賃が請求され続け、最終的に「正式な書面による解約通知がなかったため、退去日が無効」と主張された。

問題の本質

多くの賃貸契約では、「退去する際は1か月以上前に書面または所定の方法で通知すること」と明記されている。口頭の連絡では正式な通知と見なされず、解約通知日が契約上の起算点としてカウントされなかった。

回避のポイント

  • 解約通知は、契約書で定められた形式(文書・メール・専用フォームなど)で行うこと

  • 通知日から1か月間は家賃が発生するため、退去日を逆算して通知する

  • 口頭だけで済まさず、記録が残る方法で連絡する


実例2:フリーレント契約の途中解約で違約金を請求された

フリーレント(家賃無料)1か月の特典付きで入居した借主が、契約から半年で転勤のため退去を希望した。事前通知のルールも守り、原状回復も済ませたが、「フリーレント分の違約金として1か月分の家賃を支払ってもらう」と言われた。

問題の本質

契約書に「フリーレント期間中の退去、または契約後1年未満の解約は違約金として1か月分の家賃を支払う」との特約が明記されていた。借主はこの特約を見落としていた。

回避のポイント

  • フリーレント物件では、短期解約に違約金が発生するのが一般的

  • 契約書の「特約事項」欄に小さく記載されていることが多い

  • 特典条件や更新の扱いについて、契約前に不動産会社へ確認する


実例3:退去立ち会い後に追加費用を請求された

退去日に立ち会いを行い、「大きな問題はありません」と言われた借主。しかし数日後、管理会社から「クロスの貼り替え費用として5万円かかります」と連絡があり、敷金から差し引かれた。

問題の本質

立ち会い時の口頭説明には法的拘束力がなく、後日、社内基準に基づいた再確認が行われた結果として追加費用が請求された。契約書には「原状回復は別途見積もりに基づく」と記載されていた。

回避のポイント

  • 立ち会い時に「最終見積もりは後日」と言われたら、必ずその場で確認する

  • 原状回復費用の内訳を事前に契約書で確認しておく

  • 入居時に室内の写真を撮影・保存しておくと、交渉時に有利になる


実例4:更新手続き中に退去希望を出したらキャンセル扱いされた

更新月の手続き期間中に「やはり更新せず退去する」と申し出た借主に対し、管理会社は「すでに更新手続きが完了しているため、再度1か月の解約予告期間が必要」と主張。結果、希望していた退去日よりも1か月分の家賃が余分に発生した。

問題の本質

契約書に「更新手続き完了後の解約は、新たな契約に基づき1か月前通知が必要」と明記されており、事実上の再契約とみなされた。

回避のポイント

  • 更新の意思がない場合は、更新期間が始まる前に明確に伝える

  • 更新手続き(書面返送・更新料支払い)後は、新契約とみなされることがある

  • 契約書にある「更新の取り扱い」「解約予告期間」を事前に確認しておく


契約前に確認すべき「退去関連」チェックリスト

以下の項目を契約書・重要事項説明書の中から確認しておくと、退去時のトラブルを大幅に防げる。

  • 解約予告期間は何日前までか

  • 解約通知の方法(書面、メール、専用フォームなど)

  • フリーレントや特約に関する違約金の有無

  • 原状回復費用の負担範囲(クリーニング費用・クロス・鍵交換など)

  • 更新の有無、再契約方式かどうか

  • 敷金の精算方法と返金時期の目安

  • 退去立ち会い後の精算手続きの流れ


最後に:退去は「権利」だが、形式も「義務」

借主は、いつでも退去する権利を持っている。しかし、その権利を適切に行使するためには、契約に定められた方法・ルールを守る義務もある。

退去をスムーズに済ませるためには、契約時の確認、通知のタイミング、記録の残し方が重要な鍵になる。「一言で済ませる」ではなく、「一文で証明できる」状態にしておくことが、トラブルのない解約への第一歩である。