賃貸住宅を退去するときに避けて通れないのが、**「退去立会い」と呼ばれる管理会社(またはオーナー)との最終チェックの場である。
この立会いは、原状回復の範囲やクリーニング費用の確認、敷金の精算額に直結する重要なステップだが、実際にはここで「思ったより高額な修繕費を請求された」「納得できない項目があった」**というトラブルが起きるケースも少なくない。
そこで本記事では、退去時の立会いで揉めないために、事前に準備しておくべきこと、当日のチェックポイント、万が一トラブルになった際の対応方法を詳しく解説する。
そもそも「退去立会い」とは?
退去立会いとは、入居者が引っ越し後に部屋を空にした状態で、管理会社やオーナーと一緒に部屋の損耗状況や汚れ、破損の有無を確認する作業のこと。
この場で確認された内容をもとに、以下が決まる:
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原状回復費用の負担割合
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敷金の返還額
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修繕・クリーニングの範囲と金額
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鍵の返却と正式な退去完了
揉めやすい原因トップ3
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「普通の使い方だったのに、修理費を請求された」
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「入居時にあった傷なのに、退去時に自分の責任と言われた」
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「説明のない費用が見積書に入っていた」
これらはすべて、事前の確認不足や証拠の不在から起こりやすい。
退去立会いで“揉めないための準備”リスト
✅ 1. 入居時の記録(写真・チェックリスト)を保存しておく
入居時に「すでにあった傷・汚れ」の写真を撮っておくと、退去時に自分の責任ではないことを証明できる。特に以下の箇所は要撮影:
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壁紙の破れ・汚れ
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床の傷やへこみ
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ドアや窓の建付け不良
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浴室やキッチンの設備劣化
※スマホのカメラでOK。撮影日がわかる形式で保存しておくとベター。
✅ 2. 原状回復の基準(ガイドライン)を理解しておく
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、以下のように定められている:
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経年劣化や通常損耗は借主の負担ではない
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借主の故意・過失・不注意による損傷は借主負担
例:
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壁紙の日焼け、家具跡 → 経年劣化(貸主負担)
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タバコのヤニ汚れ、壁への釘穴 → 借主負担
ガイドラインは誰でも閲覧できるため、一読して基準を把握しておくと主張に説得力が増す。
✅ 3. 室内の清掃をしておく(自分のため)
ハウスクリーニングは管理会社が行うとしても、軽い掃除やゴミの撤去をしておくことで印象が良くなる。
汚れや放置されたものがあると、「だらしない退去」と見なされ、必要以上の費用を請求されやすくなる。
重点ポイント:
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キッチン・レンジフードの油汚れ
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浴室のカビ・排水口の髪の毛
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壁紙のシール・フック類の撤去
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鍵の本数確認(紛失時は交換費用発生)
✅ 4. 修繕や交換が必要なものがあれば申告しておく
小さな破損や汚れは、隠すのではなく正直に申告した方がトラブルになりにくい。
自己申告することで、「軽微な修繕」として扱ってもらえることもある。
退去立会い当日のチェックポイント
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修繕箇所について、その場で納得できない場合は「見積書を後日もらってから判断」と伝える
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その場で同意やサインを迫られても、即答しなくてよい
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写真を撮る or 管理会社に写真撮影をお願いする
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請求額があいまいな場合は「明細書をください」と依頼する
万が一トラブルになったらどうする?
▶ 敷金精算書の内容に納得できない
→ 「精算書の内訳」「修繕箇所の写真」「業者の見積もり」の提示を求める。
→ 内容によっては、内容証明での異議申し立てや、消費生活センターへの相談も検討する。
▶ 明らかに過剰な請求をされた
→ 「ガイドラインに反している可能性があります」と冷静に伝える。
→ 自治体の宅建協会や弁護士相談(法テラスなど)も活用可能。
トラブル防止のカギは「証拠」と「冷静な態度」
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感情的にならず、事実ベースで対話する
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サインを求められたら「持ち帰って確認します」と一言
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メールや書面でのやり取りを心がける(記録が残る)
退去立会いは“対立”ではなく“確認作業”
立会いは本来、貸主と借主がお互いに状況を確認し、納得して契約を終えるための場である。
無用なトラブルを避けるためには、「事前の記録」と「基本的な知識」が何よりの武器になる。
誠実に使った部屋であれば、必要以上の費用を負担する義務はない。
退去立会いは、「退去するその日まで“気持ちよく終える”ための最後のステップ」と考え、冷静に備えておきたい。