2025/06/17
特約条項に要注意|退去時トラブルの原因No.1

「原状回復費用が想像以上に高かった」
「敷金がまったく返ってこなかった」
「契約解除のタイミングで違約金を請求された」
──こうした退去時のトラブルは、契約書の“特約条項”を見落としていたことが原因であるケースが多い。

賃貸契約書には、家賃や契約期間などの基本項目とは別に、「特約(とくやく)」という項目が記載されていることがある。
この特約こそが、借主にとって“思わぬ義務”を生むルールであり、知らずにサインすれば、不利益を被る可能性が高い。

この記事では、退去時トラブルの原因No.1とも言える「特約条項」の正体と、契約前に確認すべき注意点を具体的に解説する。


そもそも「特約」とは何か?

特約条項とは、通常の賃貸契約のルールとは別に、貸主と借主の合意によって追加される特別な条件のこと。
契約書の後半や「別紙」に記載されることが多く、以下のような形式で書かれている:

第◯条(特約)
本契約において、以下の特別条件を定める。

つまり、「通常なら借主の負担ではないものでも、特約で“借主が負担する”と書かれていれば原則有効」になる点が非常に重要だ。


特約で定められやすい主な内容と注意点

特約の内容 注意点
退去時のハウスクリーニング費用を借主負担とする 敷金から差し引かれる。負担額が不明確な場合は注意。
契約期間中の中途解約に違約金が発生する 「2年未満の退去で家賃1ヶ月分」などが一般的。
壁紙・エアコン清掃・網戸交換などを一律借主負担とする 通常使用でも負担になるケースがある。
更新時の契約事務手数料を支払う義務がある 法的義務ではないが、特約があれば支払い対象になる。
ペット飼育時、敷金追加&退去時の全額償却 敷金返金なしのケースがある。契約前に要確認。


特約は「契約自由の原則」に基づいて有効

民法や借地借家法では、借主を保護するために「原状回復義務は経年劣化を含まない」などの規定がある。
しかし、「契約自由の原則」により、借主が特約に署名・押印すれば原則として有効になる。

重要なのは、以下の条件が揃っているかどうか:

  • 借主が特約内容を認識し、理解して契約したこと

  • 特約が社会通念上、著しく不合理でないこと

  • 書面に明記されていること(口頭では無効の場合あり)

→ 一度同意したら「知らなかった」では通用しないのが特約。


見落としがちな“トラブル予備軍”の特約例

● 退去時「一律クリーニング代◯万円」

→ 実費精算ではなく、相場以上の金額を一律で請求される可能性あり。

● 契約期間中に解約すると「2ヶ月前通知+違約金1ヶ月」

→ 通常は「1ヶ月前通知のみ」が一般的。特約で退去ハードルが上がっている。

● 原状回復範囲に「画鋲の穴も不可」など過剰な制限

→ ガイドラインで通常使用とされる項目でも、特約により借主負担とされるケース。


契約前に確認すべきチェックリスト

契約書にサインする前に、以下の項目をチェックしておこう:

✅ 特約条項の位置(契約書内 or 別紙 or 裏面)を見つける
✅ 「退去時の費用」に関する具体的金額が書かれているか
✅ ハウスクリーニング・エアコン洗浄などが誰の負担か明記されているか
✅ 解約時の違約金や通知期間が通常より厳しく設定されていないか
✅ 質問した内容をメールや書面で記録しておく


特約に納得できないときはどうすればいい?

  • 契約前なら交渉可能:不明確な点を質問し、納得できない内容は削除・修正を依頼できる

  • 交渉時にはメールで記録を残す:口約束は無効となるケースが多いため、文書でやりとりを残すことが重要

  • どうしても納得できない場合は契約を見送る勇気も必要:契約後に覆すことは極めて困難


トラブルを避けるための実践的アドバイス

  • 重要事項説明(宅建士の読み上げ)の際は、特約の読み上げもあるか確認する

  • 「原状回復費用は実費精算か」「金額上限があるか」を具体的に聞く

  • 説明された内容が契約書に反映されているか照らし合わせる

  • 契約書のコピーを受け取り、署名前に冷静に読み直す時間を設ける


特約は“罠”ではなく“ルール”だと理解する

特約条項は、オーナーが自分の資産を守るために設けるルールであり、必ずしも悪意があるわけではない。
しかし、それが一方的・不透明・過剰であれば、借主にとって大きな負担になることは事実だ。

だからこそ、契約時にしっかり読み、自分が納得できる条件かどうかを冷静に見極めることが、トラブルを防ぎ、安心して暮らす第一歩になる。

「内容を理解せずサインした」ことは、残念ながら法律上では自己責任とされる。
特約の存在に気づき、正しく判断すること。それが、賃貸契約における“最も重要な読み解きポイント”だ。