2025/06/17
退去時に“揉めない”ためにすべき3つのこと

退去時のトラブルは、誰にとっても避けたい出来事である。特に原状回復費用や敷金返還をめぐるトラブルは、賃貸物件を借りた経験がある人なら一度は耳にしたことがあるだろう。だが実際には、こうした揉め事の多くは「退去の瞬間」ではなく、「入居直後」や「契約時」からすでにその原因が生まれている。揉めずに退去するためには、入居から退去までの一連の行動が重要となる。ここでは、揉めないために意識すべき三つの視点について丁寧に解説していく。

まず最初に注目すべきは、入居時の部屋の状態を自分で記録しておくことだ。これは将来のトラブルを防ぐための、最も基本的かつ確実な対策といえる。人の記憶は曖昧で、半年や1年も経つと、どこに傷があったか、どこが元から汚れていたのかははっきりと思い出せなくなる。そこで、入居直後に部屋の状態を写真や動画で詳細に記録しておくことが有効である。壁紙のめくれや床の擦れ、洗面所やキッチンの細かな汚れまで、気になる部分はすべて撮影し、保存しておく。後日、退去時に「この傷は最初からあった」と主張するための証拠になるからだ。さらに、こうした記録を管理会社や物件の担当者にも共有しておけば、第三者との情報共有として信頼性が高まる。口頭での報告だけでなく、写真とともにメールなどで残しておくことで、証拠性も担保される。

次に大切なのが、契約書および重要事項説明書の内容を事前にしっかりと理解しておくことだ。賃貸契約書には、退去時の原状回復に関する詳細な取り決めが記載されていることが多い。例えば「通常損耗については貸主負担とする」「クロスの張り替え費用は借主の故意過失があった場合のみ請求可能」「退去時に一律のハウスクリーニング代が発生する」など、費用の発生条件が明確に定められていることがある。このような契約条項は、たとえ一般常識とずれていたとしても、借主が署名をした以上、法的拘束力を持つことになる。重要事項説明の場では、不明点をそのままにせず、しっかりと確認し、必要であればメモや録音を取っておくことも後の安心につながる。

特に注意したいのが、「原状回復の範囲」についての解釈である。日常生活における自然な摩耗や経年劣化については、本来であれば借主の責任にはならない。だが、どこまでが経年劣化で、どこからが故意過失による損耗かは、立場によって判断が分かれる部分でもある。こうした判断基準は、契約書や国のガイドラインに沿って事前に確認しておくことが求められる。

三つ目の視点は、退去が近づいたタイミングで行う“退去準備”である。意外にも、ここでの心構えや行動がトラブルの有無を大きく左右する。引っ越しの当日はバタバタと忙しくなりがちだが、余裕を持って荷物の撤去、掃除、公共料金の精算などを進める必要がある。特に部屋の簡易清掃は、立ち会い時の印象に大きく関わる。ハウスクリーニングが別途行われる物件であっても、ゴミが残っていたり、家具を引きずった跡がそのままになっていたりすれば、「丁寧に使われていなかった」という印象を与えてしまう。軽くでもいいので、床や水まわりを拭いておく、換気をしておくといった一手間が信頼感につながる。

また、ガスや電気、水道、インターネットなどの契約も、忘れずに退去日までに停止手続きを済ませることが必要である。さらに、退去予告のタイミングも重要なポイントとなる。多くの賃貸契約では、退去の1ヶ月前までに管理会社へ通知する義務が定められており、このタイミングを逃すと余計な家賃負担が発生してしまうことがある。書面による通知が必要とされる場合もあるため、電話一本で済ませたつもりにならないよう注意が必要だ。

以上のように、退去時のトラブルを防ぐためには、入居時の記録、契約内容の理解、退去準備の3点が柱となる。これらはどれも派手な行動ではなく、日々の意識と準備の積み重ねである。だが、この積み重ねこそが、スムーズな退去と納得のいく解約につながる。揉めることなく、新しい生活へ気持ちよく移行するために、今できる準備を丁寧に進めていきたい。