賃貸物件を退去する際に実施される「原状回復の立会い」は、入居者と管理会社または貸主が室内の状態を確認し、修繕やクリーニングの対象箇所を確定させる重要なプロセスである。この立会いでどのような点が指摘されやすいのかを知っておくことは、不要な費用負担を防ぎ、スムーズな退去につなげるうえで非常に有効である。実際に頻繁に話題にのぼる指摘ポイントは、ある程度共通しており、その傾向をあらかじめ理解しておくことで備えが可能になる。
まず最も多く指摘されるのが「クロスの汚れ・破損」である。室内の壁紙は面積が広く、生活の中で自然と汚れや傷がつきやすい部分である。特に家具が直接当たっていた部分のへこみや擦れ、ペットを飼っていた場合の引っかき傷、喫煙によるヤニ汚れや臭いなどは、貸主側から修繕や張り替えの請求がなされる可能性が高い。ただし、日光による色あせや冷蔵庫の後ろの結露跡といった経年劣化と判断されるものは、原則として借主負担とはならない。だが現場ではこの判断が曖昧になりがちなため、写真などの証拠を残しておくことが有効となる。
次に見落とされがちだが頻繁に指摘されるのが「床の傷や汚れ」である。特にフローリングの場合、椅子の移動や家具の設置によってできた擦れ傷、キャスターのついたイスによるへこみ、何かを落とした際のへこみなどが問題視されることがある。畳の場合は日焼けや擦れによる劣化が指摘されることもあるが、こちらも経年劣化か借主による過失かの判断が重要となる。また、フローリングに敷いていたマットの跡や色の差がはっきり残ってしまうと、場合によっては「著しい変色」として張り替えを求められることもある。
水回りの設備に関する指摘も非常に多い。特にキッチンや浴室、洗面台、トイレといった場所は、日常的に使われるため汚れやすく、またカビや水垢、ヌメリといった汚れが溜まりやすい。例えば排水口まわりのぬめりや黒カビ、鏡のウロコ汚れ、トイレの黄ばみなどは、掃除不足として指摘される可能性がある。これらはハウスクリーニングで対応できることも多いが、入居者負担の有無は契約書の記載内容による。中には「清掃費用一律請求」とされているケースもあるが、借主側が最低限の掃除をしておくことで、印象面での評価は確実に変わってくる。
玄関やベランダまわりの状況も見落とされがちながら、チェックの対象になる部分である。玄関のドア周辺の汚れや鍵の破損、ベランダに私物やゴミが残されていると、明確に借主の過失と判断される。ベランダにおいては排水溝の詰まりや草木の放置による劣化が指摘されることもあり、退去前に清掃と整理をしておくべき箇所である。
また、設備品の紛失や破損も指摘対象となる。例えばリモコンや照明器具、備え付けの棚やカーテンレールなどが欠けていたり、破損していたりする場合、それらが元々あったものかどうかが問われる。入居時に設備リストを確認し、破損の有無を記録しておくことが、後日のトラブルを避ける鍵となる。
こうした立会い時のチェックポイントの多くは、日頃の使い方に起因している。丁寧に使っていたとしても、思わぬ指摘を受けることは少なくない。だが事前に指摘されやすい箇所を知り、自分なりに点検と対応を行っておくことで、過剰な請求や不本意な費用負担を避けることが可能になる。退去立会いとは単なる手続きではなく、入居者と貸主との信頼関係の仕上げとも言える場面である。部屋の使い方そのものが評価されるこの瞬間に向けて、最後まで誠実に向き合う姿勢が求められる。