2025/06/16
更新時に家賃が上がる?その交渉の仕方と注意点

賃貸物件に住んでいて、契約更新のタイミングで突然「来月から家賃を上げさせてほしい」と告げられると、多くの人が戸惑いを感じるだろう。現在の住まいに不満がない場合、住み慣れた環境にそのまま住み続けたいという気持ちは自然なものであり、家賃の値上げはその意志に対する障壁となる。しかし実際には、契約更新に伴って家賃が変更されることは法律上認められており、その背景と対処法を正しく理解しておくことが重要になる。

家賃が更新時に上がる理由としては、まず「周辺相場との乖離調整」が挙げられる。築年数や立地条件が似た物件と比較して、現在の家賃が明らかに安くなっている場合、貸主側としては市場に見合った水準への見直しを行いたいと考えるのは自然である。また、周辺で開発が進み、駅前の整備や大型施設の新設などがあった場合、エリア全体の人気が上昇し、それに伴って家賃相場も上がる傾向がある。こうした事情があるとき、更新時に家賃改定の申し出がなされる可能性は高まる。

もうひとつの理由は、賃貸経営上の収支バランスの調整である。物価や税金、管理費の上昇によって、賃貸経営そのもののコストが増している場合、家賃の引き上げは経営の持続性を確保するための手段として用いられる。とくに築年数が経過した物件では、修繕費や設備更新の負担も大きくなるため、長期的に収支を安定させる必要性から家賃を見直す判断がなされる。

では、家賃の値上げを提示された際に、借主はそれを無条件に受け入れるべきなのだろうか。答えは「NO」である。家賃の値上げは貸主側からの「申し出」に過ぎず、それを承諾するかどうかは借主の判断に委ねられている。つまり、そこには交渉の余地があるということである。

まず行うべきは、「値上げの根拠を確認すること」である。ただ単に「更新のタイミングだから」といった理由であれば、納得性に欠ける。貸主や管理会社に、なぜその金額に改定されるのか、周辺相場と比較してどういった位置づけになるのかを丁寧に尋ねることで、実態を把握することができる。相場に明らかに反している場合には、そのデータを提示して話し合うことが有効である。

また、日頃の物件の使い方や借主としての信頼性も、交渉材料になる。例えば長期間にわたって家賃の滞納がなく、室内を丁寧に使っている借主であれば、貸主側としても安心して貸し続けたいという心理が働く。そうした実績をもとに、「これまでの良好な入居履歴を踏まえ、据え置きにしてもらえないか」といった交渉が現実的である。

交渉を行う際に注意したいのは、感情的な対応を避けることだ。「上げるなんて納得できない」と一方的に拒否するのではなく、冷静に事実を確認し、話し合いの姿勢を保つことが重要である。また、「値上げは受け入れるが、設備面の改善をお願いしたい」といった形で条件をつけた交渉をすることも一案である。家賃が上がるのであれば、それに見合った住環境の改善を求めることは合理的な姿勢と言える。

仮に交渉が不調に終わり、どうしても新たな条件に納得がいかない場合は、退去を検討するという選択肢もある。その際には、退去予告の期間や違約金の有無を契約書で確認し、無理のないスケジュールで次の住まいを探す必要がある。無理に契約を続けて生活コストが圧迫されるより、自分にとって納得感のある選択を優先することが、長期的には精神的にも経済的にも健全な判断となる。

家賃の値上げは、入居者にとっては避けたい知らせであることに違いない。しかし、それにどう対応するかによって、その後の生活の満足度や住環境の質が大きく変わる。感情的に反応せず、冷静に背景を理解し、自分の立場と希望を伝えることで、望ましい結果を導く可能性は十分にある。更新の時期こそ、借主と貸主が改めてお互いの立場を確認し合う貴重なタイミングである。だからこそ、その時間を丁寧に使っていきたい。