2025/06/27
回すだけなのに夢中──“独楽”が子どもたちの人気No.1に

見た目は地味で、操作も単純。ただ糸を引き、手のひらから放つだけ──それでも、いま香港の子どもたちは“独楽(こま)”のとりこになっている。色とりどりの木製独楽が教室や校庭で回り、誰が一番長く回せるかを競い合う姿があちこちで見られるようになった。

回るというたった一つの動作に、なぜこれほど夢中になるのか?
その理由を探ると、シンプルな構造の裏に隠れた“感覚と集中の深さ”が見えてくる。

独楽の基本は“指と感覚”

独楽は、日本でも江戸時代から親しまれてきた伝統玩具の一つ。円錐状または平らな形の胴体に、回転軸がついた構造で、手のひねりや糸を使って回す。

特別なギミックはない。ただ「回すだけ」。だが、この“単純さ”こそが子どもたちの想像力と工夫心をかき立てる。

「最初はまったく回せなかった。でも、糸の巻き方を変えて、手の角度を変えて…気がついたら毎日練習していた」と語るのは、小学4年生のユンくん。何度も失敗しながら“コツ”をつかんでいく過程に、スマホゲームにはない没頭感があるという。

一見地味な動きの中に、集中力・指先の繊細な操作・タイミングの感覚が凝縮されている。それが子どもたちに“ハマる”理由なのだ。

教室に広がる“独楽クラブ”

独楽人気の背景には、香港のある小学校で始まった「昔のおもちゃプロジェクト」の影響がある。デジタル遊具に頼らず、手や体を使って遊ぶ文化を再発見する取り組みの中で、けん玉・竹とんぼ・おはじきと並んで導入されたのが“独楽”だった。

最初は「回らない!」「難しい!」と不満を漏らしていた子どもたちも、先生がコツを見せ、成功した友だちを見て一気に意欲が燃え上がった。今では「誰が一番長く回せるか」「回し技を何種類できるか」と、独自のルールを作って盛り上がっている。

教師によれば、「集中力が持続しない」「勝負にこだわらない」といった現代の子どもたちの傾向に対し、独楽遊びは“忍耐と達成感”を自然に育てる効果があるという。

カラフルで美しい“動くアート”

現代の独楽は、カラフルな塗装や模様が施されたものも多く、回転すると色が溶け合い、美しい模様が現れる。この“動くアート”としての魅力が、特に女の子や幼児層に受けている。

「回している間だけ見える模様がきれい。止まると違う形になるのも不思議で、何回もやりたくなる」と話すのは小学2年生のリンちゃん。視覚的にも“ごほうび”があるこの感覚体験は、ゲームや映像とはまた違う満足感を子どもたちに与えている。

また、回る速度や角度で模様の見え方が変化することから、物理や図形への興味に発展するケースも。遊びながら“理科の入口”に立つこともあるのだ。

親世代とつながる“共通体験”

独楽は、日本でも昭和の時代、正月遊びの定番として広く親しまれていた。今、香港でも親世代や祖父母が「自分も昔遊んだよ」と子どもに声をかけ、一緒に遊ぶ姿が見られるようになってきた。

“昔の遊び”は、世代を越えて共通の話題を生む貴重なツールだ。スマホやタブレットに詳しくない祖父母でも、独楽なら一緒に遊べる。「昔のおもちゃ」は、“共育”のきっかけとして、家庭にも静かに浸透している。

おわりに──回ることが、育む力

回す。ただそれだけのことに、夢中になる。けれどその中には、手で感じ、目で追い、頭で工夫する──すべての“学びの原点”が詰まっている。

独楽は教えてくれる。遊びとは、何かを操作することではなく、自分の力で動かして、結果を見届けること。そして、うまくいかないからこそ、何度も挑戦したくなること。

そんな“アナログの魅力”が、今また子どもたちの心をつかんでいる。独楽が静かに回り続ける限り、そこには確かに、豊かな育ちの時間がある。