色あせた木のけん玉、カラフルなガラスのおはじき、ふわりと空を舞う紙風船──どれも時代遅れのように見えるかもしれない。だが今、こうした日本の“昔のおもちゃ”が、香港の子どもや親たちの間で“新鮮で価値あるもの”として静かな注目を集めている。
高機能なデジタル玩具やカラフルなキャラクター商品が溢れる中、「シンプルでアナログなおもちゃ」が逆に心を惹きつけている。その背景には、“古いからこそ美しい”“不完全だからこそ想像できる”という新しい価値観がある。
“レトロ”がもたらす刺激と癒し
香港の文化イベントや教育施設では、けん玉、竹とんぼ、おはじきなどの日本の伝統玩具を使ったワークショップが開催され、多くの親子連れが参加している。
イベントを訪れたある母親は、「スマホやゲームでは得られない、静かな集中や感触がここにある」と語る。例えば、けん玉の木が奏でる“カツン”という音や、おはじきがテーブルに転がる“コトコト”という感触には、自然素材ならではの“やさしさ”と“記憶のような懐かしさ”が宿っている。
見た目の派手さや音の大きさで惹きつけるのではなく、「触って、聞いて、考えて」楽しむ。それが、心の奥にある“本物志向”を刺激しているのかもしれない。
使い捨てではなく、育てていくおもちゃ
多くの昔のおもちゃは、壊れたら直す、飽きたら飾る、工夫して別の遊び方をする──といった“生活に根付く道具”として扱われていた。香港でもこうした価値観に共感する親が増えており、「すぐに壊れて捨てるプラスチック製より、長く使える木の玩具を選びたい」という声が聞かれる。
たとえば、紙風船に自分で模様を描く、けん玉に名前を刻むなど、“手を加える余白”があることで、おもちゃが単なる消費物ではなく、「自分の道具」へと変わっていく。
この“余白のあるデザイン”が、想像力や創造力を育てる。自分で工夫して、試して、失敗して、また挑戦する──昔のおもちゃは、遊びの中に自然とそうした力を含んでいる。
子どもよりも親がハマる理由
面白いことに、こうした昔のおもちゃワークショップでは、子ども以上に親たちが夢中になる姿も多く見られる。「自分の子ども時代を思い出す」「スマホに触れずに何かに集中できる時間が新鮮」といった声が上がる。
また、伝統玩具に宿る“素材の美しさ”や“機能美”に感動する人も少なくない。木目や色合い、手に収まる重みや質感──それらが、現代の大量生産品にはない“個性”として評価されている。
「子どもの教育のために始めたが、自分が一番楽しんでいる」と笑う父親もいた。昔のおもちゃは、世代を超えて“感性を育てる共通体験”を生み出しているのだ。
「懐かしさ」から「未来の知育」へ
昔のおもちゃブームは、一過性の“レトロブーム”ではない。それは、今の社会が必要としている「想像力」「対話」「五感の学び」への回帰でもある。
目の前の画面から一度離れ、音や感触、手の動きと向き合う時間。そこにあるのは、“学ばせる”のではなく、“育つ時間”だ。
「古いものだからこそ、大切にしたい」──香港の親たちが感じ始めているこの意識が、昔のおもちゃを未来へとつなぐ新しい“知育ツール”に変えていく。