北海道の玄関口である札幌は、グルメ目的の旅人にとってまさに理想的なスタート地点だ。大都市の利便性を保ちながらも、新鮮な海の幸、雄大な自然の恵み、そして個性的な郷土料理が揃う札幌には、グルメ目的だけでも数泊の滞在価値がある。中でも象徴的な料理といえるのが、ジンギスカン、海鮮丼、そしてスープカレーだ。これら三つを「札幌らしい一食」として一気に味わう旅は、グルメと北海道文化を同時に体験できる、贅沢で奥深い時間を生み出す。
まず、札幌駅周辺や大通エリアに多く点在するジンギスカンの専門店を訪ねるところから始めたい。かつては庶民的なイメージが強かったジンギスカンだが、近年は品質管理や調理技術の向上により、観光客だけでなく地元住民からも洗練された郷土料理として再評価されている。厚切りのラム肉に、もみだれやつけだれを絡めて鉄鍋で焼く独特のスタイルは、肉の香ばしさと野菜の甘味を引き立て、どこか懐かしさすら感じさせる。店舗によっては、希少部位や熟成ラムなどの高級ラインも取り扱っており、同じジンギスカンでも味わいの幅が広い。
翌朝のスタートは、早朝から営業する市場エリアがふさわしい。札幌には複数の市場が存在しており、どこを選んでも新鮮な魚介が味わえる。旬の海鮮がぎっしりと乗った丼は、訪れる季節や漁獲状況によって内容が変わるため、何度訪れても飽きがこない。脂ののったサーモンやトロ、甘みの強いウニやイクラといった定番のほかに、地元でしか出回らない白身魚や貝類が加わることで、旅先ならではの一杯となる。店内でいただく丼ぶりはもちろん、テイクアウトして近くの公園で食べるのもまた格別だ。
午後には札幌ならではの創作料理、スープカレーの専門店へと向かいたい。スープカレーは単なる「カレーのスープ版」ではなく、スパイスの効いたスープに、丸ごとの野菜や鶏肉、ラム肉などがごろりと盛り付けられた一皿で、素材の持つ風味がダイレクトに味わえるのが特徴である。見た目にもインパクトがあり、辛さやスパイスの種類、トッピングを自分好みにカスタマイズできる点も人気の理由となっている。各店ごとにブイヨンのとり方やスパイス配合がまったく異なり、その差を比較すること自体が一つの旅のテーマになりうる。
この三大料理をめぐる旅は、札幌市内を中心に完結するため、移動の負担が少なく、食に集中できるのが大きな魅力だ。地下鉄や市電といった公共交通が発達しており、アルコールを楽しみたい場合でも移動手段に困ることがない。また、飲食店のほとんどが夜遅くまで営業しており、夕食後にもう一軒、あるいは深夜にラーメン店で締めるといった“第二ラウンド”にも容易に突入できる。
加えて、札幌は各季節のイベントともグルメが強く結びついている。冬にはイルミネーションに彩られた街の中で熱々のジンギスカンを囲み、夏にはビアガーデンとともに冷たい海鮮丼を味わう。秋には収穫されたばかりの野菜がスープカレーに加わり、春には旬の山菜を取り入れた限定メニューが登場するなど、季節の移ろいを食で感じられるのもこの地ならではの楽しみ方だ。
札幌の食文化は、単なる観光消費にとどまらず、地元の生活に根ざした深い文化的背景を持っている。それぞれの料理には地域とのつながりがあり、訪れる人々を一時的なゲストではなく、同じ食卓を囲む一員として迎え入れてくれる温かさがある。グルメを目的とした旅は数あれど、札幌ほどバランスよく、かつ奥深い味覚体験を提供してくれる都市は多くない。三食で終わらない、記憶に残る“一皿”が、ここには確かに存在する。