北海道の西海岸にひっそりと佇む小樽は、古き良き時代の面影を色濃く残す港町である。札幌から電車で約40分という立地にもかかわらず、歩いた瞬間から時間の流れがゆっくりと変わる感覚を覚える。小樽は観光地としても有名だが、その本質は、石造倉庫やガス灯の並ぶ運河沿いの景観、そして昭和の記憶が詰まった喫茶店や洋館の中に静かに息づいている。都市の喧騒から離れた、1泊2日のロマンチックな時間が過ごせる場所だ。
初日は昼過ぎに小樽駅に到着する時間を想定すると、まずは運河エリアから散策を始めるのがよい。駅から徒歩10分ほどの距離にある小樽運河は、かつての物流の要として栄えた場所で、現在はその美しい景観が町の象徴になっている。石畳の遊歩道を歩けば、倉庫をリノベーションしたカフェやギャラリーが並び、昔と今がゆるやかに交差しているのを感じる。夕方に近づくにつれ、ガス灯に明かりが灯り、運河に映る光と影がより一層幻想的な雰囲気を醸し出す。
夕暮れ時には、運河沿いの一軒家レストランで早めの夕食をとるのもおすすめだ。魚介類を中心とした洋風の創作料理や、地元野菜をふんだんに使ったメニューが揃っており、時間を忘れて食事に没頭できる。ディナー後には、小樽ならではの夜の景色を楽しむために、夜の街を少し歩いてみるといい。日中の賑わいが落ち着き、静寂のなかに灯る建物の窓明かりが旅情をさらに深めてくれる。
宿泊は歴史的な建物を利用した宿や、個人経営の小さなホテルを選ぶと、小樽らしさがより際立つ。部屋の窓から石畳の通りが見えるような、古き洋館の趣を感じる場所に泊まることで、まるで物語の中に迷い込んだかのような気分が味わえる。外の寒さを忘れさせる温もりのある空間で、静かに一日を振り返る時間もまた、この町ならではの贅沢である。
翌朝は、朝食を軽めに済ませたら、少し早い時間からレトロ喫茶店めぐりに出かけてみたい。小樽には、昭和の香りがそのまま残る喫茶店が今も多く存在しており、アンティークの家具や手描きのメニュー、店主こだわりのブレンド珈琲など、それぞれに個性がある。ある店では壁一面に古いレコードジャケットが飾られ、別の店ではステンドグラスの光がテーブルに落ちる。そこに流れる空気は、現代のカフェとは違った心地よい距離感と緩やかさがあり、日常から少し離れたい旅人にとって、何よりの癒しとなる。
喫茶店で過ごす時間は、単なる休憩ではなく、一つの目的地としての存在感がある。窓際の席に腰掛け、運河沿いの風景や通りを歩く人々を眺めながら、時間を忘れて本を読んだり、思索にふけることができる。地元客と観光客が自然に混じり合う静かな空間は、この町が持つ“開かれた懐かしさ”を象徴している。
午後には、ガラス工芸やオルゴールといった手仕事の店を巡るのも楽しい。観光客向けの土産店だけでなく、職人が営む工房では一点物の作品に出会うこともできる。街全体に漂う手作りの温かさとゆるやかさが、旅の終わりを穏やかなものにしてくれる。
小樽は派手さや新しさを追い求める場所ではない。その代わりに、記憶の中にある懐かしい風景や、自分自身とゆっくり向き合える時間を提供してくれる。短い滞在の中であっても、過ぎていく時間そのものが旅の宝物に変わっていく。1泊2日という限られた時間の中で、小樽が持つ“時を止める力”に触れたなら、それはきっと記憶に深く刻まれることになる。