2025/06/27
登別温泉の“地獄谷”と極上の湯|札幌から90分で行ける癒しの旅

北海道の南西部に位置する登別温泉は、数ある名湯のなかでも特に濃厚な泉質と個性豊かな自然景観で知られている。火山活動によって生まれたこの温泉地は、まさに「地球の鼓動」を感じさせる独特の雰囲気を持ち、その中心にある“地獄谷”は観光と癒しを両立させる非日常空間として旅人を惹きつけてやまない。札幌から車や高速バスで約90分というアクセスの良さもあり、日常から少しだけ離れたいときにぴったりの滞在地となっている。

札幌を出発したら、山あいの緑と川沿いの風景を眺めながら南下する。季節によって表情を変える道中は、旅の導入としてすでに心を解きほぐしてくれる。登別温泉街に到着すると、まず感じるのは空気に混じる硫黄の香りだ。これはこの地の名物である地獄谷に由来するもので、まさに「生きた大地」の存在を肌で感じる瞬間である。

地獄谷は、温泉街のすぐ背後に広がる約450メートルの火口跡で、無数の噴気孔や熱泥が大地を蒸しあげ、常に湯煙が立ちのぼっている。遊歩道が整備されており、靴のままで散策ができるため、温泉街からそのまま歩いて向かえるのも魅力のひとつだ。谷の奥に進むにつれ、足元から響くような蒸気の音や硫黄の匂いが増していき、目に映る風景が現実離れしたものに変わっていく。展望台から見下ろすと、まるで異世界に迷い込んだかのような光景が広がり、写真だけでは伝わらない迫力が旅人を包み込む。

地獄谷を散策した後は、温泉宿へ戻り、ゆっくりと湯に浸かりたい。登別温泉の最大の特長は、その豊富な泉質のバリエーションにある。ひとつの温泉地で硫黄泉、鉄泉、酸性泉、塩化物泉など複数の源泉を楽しめるのは非常に珍しく、それぞれ効能や体感温度が異なるため、まるで温泉のテイスティングをしているかのような気分になる。なかでも、肌をなめらかに整えるとされる硫黄泉と、身体の芯から温まる塩化物泉は特に人気が高く、冷え性や疲労回復を目的に訪れる人々に支持されている。

宿泊施設は大型の温泉旅館から、落ち着いた佇まいの小宿まで多彩に揃っている。中には複数の源泉を引いた内湯・露天風呂を持つ宿もあり、湯めぐりを宿の中だけで完結できるケースもある。部屋でゆっくりくつろぎながら、北海道の山海の幸を使った会席料理に舌鼓を打つ時間は、日常から完全に切り離された“リセット”のひとときとなる。

温泉に浸かることを中心としながらも、登別にはもう一つの魅力がある。それは、街の随所にちりばめられた“鬼”のモチーフである。鬼は登別の守り神とされており、街の入り口やバス停、橋の欄干など至る所にユーモラスな姿で登場する。力強くもどこか愛嬌のあるその姿は、登別の風景に遊び心を加え、訪れる人の記憶に残るシンボルとなっている。

さらに足を延ばせば、森林浴が楽しめる自然遊歩道や、湧出口に直接手を伸ばせる間欠泉の観察スポットもあり、温泉に浸かるだけでなく、五感で温泉地を体験することができる。特に早朝や夕方の散策は、観光客の少ない静けさの中で地熱の息吹をじかに感じられ、神秘的な時間となる。

登別は単に「湯に入る場所」ではなく、土地そのものが生きていることを感じる“地熱と共存する町”である。その恵みを借りて、身体と心を同時に緩めることができる。旅というより“調律”に近い感覚を得たいとき、この温泉地は最適な選択肢となるだろう。