長野県中部に位置する松本市は、歴史と芸術が共存する街。なかでも国宝・松本城と、美ヶ原高原美術館という対照的な二つの名所を巡る旅は、時代と空間を超えた豊かな時間をもたらしてくれる。都市と自然、美と静けさ──それらが絶妙に調和した1泊2日の旅は、心に余白をもたらす。
旅のスタートは、JR松本駅から徒歩約15分。黒と白のコントラストが美しい「松本城」は、戦国時代の面影を色濃く残す現存天守のひとつ。堀に映る姿は絵画のようで、朝の光が差し込む時間帯には特に静寂と品格が際立つ。内部の急な階段や木の香り、当時のままの構造は、現代では感じにくい時間の重みを伝えてくれる。
周辺には松本城を中心とした城下町の名残が点在しており、縄手通りや中町通りでは蔵造りの建物を改装したカフェや工芸店が並ぶ。地元の漆器や木工製品、信州そばといった文化と味覚に触れるのも、松本散策の魅力のひとつだ。
1泊した翌朝は、標高2000メートルに広がる「美ヶ原高原」へ。松本市街から車で約1時間半の道のりだが、山道を登るごとに景色が開け、やがて視界は空と草原に包まれる。目的地の「美ヶ原高原美術館」は、屋外に約350点の彫刻作品が展示された広大な野外美術館。背景にそびえる北アルプスや八ヶ岳連峰の雄大な景観と、モダンアートが共鳴し、自然と芸術の境界が溶け合う不思議な感覚を味わえる。
風に揺れる草原の中を歩きながら作品を巡るこの体験は、美術館というよりもひとつの“風景そのもの”。訪れる時間帯や天候によっても印象が変わるため、何度でも新しい表情と出会える。足を止めて、作品と空のコントラストを眺めるだけでも、深く呼吸したくなるような解放感がある。
帰路は高原のドライブを楽しみつつ、途中の道の駅で地元の乳製品や高原野菜を買い求めるのも楽しみのひとつ。ソフトクリームやヨーグルトはその場で味わえる人気の名物。時間に余裕があれば、浅間温泉や美ヶ原温泉など、松本市内の温泉地で旅の締めくくりを過ごすのもおすすめだ。
この旅は、歴史という“内なる時間”と、高原という“空に開かれた空間”を行き来する構成になっている。静かに過去を振り返り、風の中で心をゆるめる。そんな二面性のある松本・美ヶ原の旅は、観光以上の体験として、確かな余韻を残してくれる。