岐阜県の飛騨地方に位置する高山と白川郷は、歴史と伝統が息づくエリアとして国内外から注目を集めている。江戸時代の面影を色濃く残す高山の古い町並みと、世界遺産に登録された白川郷の合掌造り集落は、現代とは異なる時間が流れるような感覚を旅人に与えてくれる。
旅の出発点となる高山は、JR高山本線で名古屋から特急で約2時間半。駅から徒歩圏内に広がる「三町伝統的建造物群保存地区」は、江戸時代に商人町として栄えた名残を残す美しいエリアだ。黒塗りの格子戸が続く通りには、老舗の造り酒屋や和菓子店、工芸品店が軒を連ね、歩くだけで歴史の香りに包まれる。
朝の時間帯には「宮川朝市」が開催され、新鮮な野菜や手作りの漬物、地元の民芸品などが並ぶ。観光客だけでなく地元の人々も訪れるこの朝市は、町に息づく暮らしを感じられる貴重な場所でもある。町並み散策の合間には、飛騨牛の握り寿司や五平餅など、地元グルメを食べ歩くのも高山ならではの楽しみ方だ。
高山から白川郷へは、バスで約50分。山間の道を抜けてたどり着くその集落には、まるで絵本の中に入り込んだような風景が広がっている。特徴的な茅葺き屋根の合掌造り家屋が立ち並び、四季折々の自然と調和するその姿は、世界遺産にもふさわしい静謐な美しさを放っている。
「和田家住宅」など、内部を見学できる施設では、合掌造りの構造や雪国での暮らしの工夫を間近で体感できる。急勾配の屋根は豪雪に備えるためのものであり、梁や柱の組み方には先人の知恵が込められている。見上げるだけで圧倒される建築と、囲炉裏の残る生活空間は、懐かしさと新鮮さを同時に感じさせてくれる。
展望台から集落全体を見下ろせば、季節によって異なる表情が楽しめる。春の新緑、夏の青空、秋の紅葉、そして冬の雪景色──いずれの季節も白川郷の美しさを際立たせる舞台装置となる。特に冬季のライトアップイベントでは、合掌造りが雪に包まれ、灯りに照らされる幻想的な光景が人気を集めている。
高山と白川郷の旅は、観光名所をめぐるだけではなく、暮らしの記憶に触れる体験でもある。現代の喧騒から離れたこの土地には、人と自然、伝統と生活が穏やかに調和する時間が流れている。足を止めて、風の音や屋根を打つ雨の音に耳を澄ます──そんな静かな時間こそが、この旅の本当の贅沢かもしれない。