愛媛県松山市――夏目漱石の小説『坊っちゃん』の舞台として知られるこの街には、歴史と文学が交差する独特の情緒が息づいている。なかでも日本最古といわれる道後温泉と、天守が現存する名城・松山城は、訪れる人に明治の香りと和の風格を感じさせる特別な存在。街を歩くだけで、どこか懐かしく、どこか新しい“ロマンの余韻”に包まれるような滞在が叶う。
【1日目】道後温泉街をのんびり歩く|時を超える湯のまち
旅の拠点は、JR松山駅または松山空港。路面電車に揺られてたどり着く「道後温泉本館」は、明治27年に建てられた木造三層の趣ある湯屋建築。国の重要文化財にも指定されており、外観を見上げるだけでも心が躍る。
現在は改修工事中の部分もあるが、営業は続いており、内部では伝統の“神の湯”を堪能できる。石造りの湯船に浸かれば、1300年を超える湯の歴史に身を預けるような気分に。入浴後は、浴衣姿で温泉街をそぞろ歩き。「坊っちゃんカラクリ時計」や「放生園足湯」など、小さな見どころが点在しており、湯上がりのひとときにぴったりだ。
夜は、道後温泉本館や別館「飛鳥乃湯泉」に隣接する旅館やホテルへ。会席料理と地酒に舌鼓を打ちつつ、のんびりとした時間が流れていく。
【2日目】松山城と文学に触れる|城とことばの街へ
翌日は、松山城のある中心市街地へ。標高132メートルの勝山にそびえる松山城は、全国に12しか残っていない現存天守のひとつ。ロープウェイまたはリフトで山頂へ向かい、天守に登れば、市街地と瀬戸内海を一望する雄大なパノラマが広がる。
本丸を中心とした曲輪や門、石垣も見応えがあり、武士たちの生活や防衛の工夫を垣間見ることができる。桜の名所としても有名で、春には多くの花見客が訪れるスポットだ。
城下に戻ったら、「坂の上の雲ミュージアム」や「子規記念博物館」など、文学にまつわる施設へも足を運びたい。松山は俳人・正岡子規の出身地でもあり、町全体が文学と密接に結びついている。道後温泉街や市内各所には俳句ポストが設置され、旅の感想を一句に託して投函する楽しみもある。
【グルメと街歩きも充実】
食も忘れてはならない楽しみの一つ。地元名物の「鯛めし」は、炊き込みタイプと刺身を出汁でいただくスタイルの2種があり、どちらも松山で味わう価値あり。さらに、じゃこ天や伊予柑を使ったスイーツなど、土地ならではの味が揃う。
道後や大街道商店街では、おしゃれなカフェや工芸品のショップも多く、散策とショッピングを兼ねて過ごせるのも魅力。時間に余裕があれば、郊外の「伊佐爾波神社」や「石手寺」など、歴史ある寺社仏閣を巡るのもおすすめだ。
湯と文学、歴史が重なる松山の魅力
道後の湯に癒やされ、松山城の歴史を仰ぎ、言葉の街を歩く――“坊っちゃんの街”は、単なる観光ではなく、文化と感性に寄り添う滞在を提供してくれる。レトロとモダンが混ざり合うこの町で、心の奥まであたたまる旅を体験してみてはいかがだろうか。